目的と手段の違い

「無許可営業」の取締りであることは事実なのですが、記事をよく読むと、それは目的達成のための「手段」であり、そのこと自体が「目的」ではないことがわかります。

種明かしは、徳島新聞の記事をお読みいただいた後で(笑)。

2017年1月10日付 徳島新聞 「県内でヤード初摘発 廃棄物違法処理 中国人5人逮捕

 徳島県警と高松入国管理局は10日、「ヤード」と呼ばれる機械類の解体作業場を使って無許可で廃棄物の収集や処理をしたとして、廃棄物処理法違反の疑いで、株式会社日昇商事(石井町浦庄)社長の同町石井、于振南容疑者(33)ら中国人5人を逮捕した。県内でのヤードの摘発は初めて。全国ではヤードを舞台にした外国人犯罪が相次いでおり、県警は県内でも警戒していた。

 逮捕容疑は2016年4月27日から10月7日までの間、知事や市町村長の許可を受けずに同社ヤードなどで8回にわたり、リサイクル業者や一般人から産業廃棄物のほか、一般廃棄物の洗濯機やテレビ、冷蔵庫など17台を収集し、破砕して処分したとしている。

 県警は各容疑者の認否を明らかにしていない。

 県警によると、日昇商事は14年に大阪市内から石井町に移転してきた。数千円程度の回収料をもらったり無償で引き取ったりした家電や農機具、自転車などを解体した後、金属くずにして販売していたとみられる。同社は古物営業の許可は取っていたが、廃棄物の収集・運搬や処分の許可は持っていなかった。

 県警は今月4日に捜査本部を立ち上げ、10日午前に55人態勢で石井町のヤードや吉野川市鴨島町上浦の同社倉庫など数カ所の家宅捜索に入った。ヤードには鉄くずや草刈り機、自転車などが山積みされており、捜査員は帳簿類を押収するなどして販売ルートなどの実態解明を進める。

筆者の着眼ポイント

徳島新聞の記事中のキーワードを赤字で強調しておきましたので、いきなり種明かしをしていたのですが(笑)、「入国管理局」が主体だったことに注意が必要です。

最初から廃棄物処理法違反の取締りが目的であったならば、徳島県や地方環境事務所が警察と一緒に動いていたはずですが、記事を読む限り、徳島県警の他には入国管理局の名称しか挙がっていませんので、おそらく、逮捕の主眼は「出入国管理及び難民認定法」違反容疑と思われます。

もちろん、無許可営業自体が、廃棄物処理法第25条違反の重罪であり、それ単独で取締りの対象となる犯罪なのですが、今回の一事をもって、ヤードでの営業規制が全国的に進むと考えるのは早計と思われます。

事件として立件する際に問題になるのが、
容疑者が扱っていた品物が「廃棄物」だったのか、それとも「有価物」あるいは「専ら物」だったのかという点になります。

スクラップではありませんが、昨年末に大同特殊鋼のスラグ売買偽装が、地検から「廃棄物として立証できない」という理由で不起訴処分になったことが記憶に新しいところですが、このあたりの立証は非常にデリケートなものとなりそうです。

曲がりなりにも鉄鋼原料として売却できる品質の物であったのならば、「専ら物なので業許可不要だ」と容易に反論されてしまうからです。

もっとも、そうした反論を事前にふさぐために、徳島県警は55人態勢で家宅捜索に入ったわけですから、事前の内偵等で廃棄物処理法違反の事実があるという確証を得ていたものと思われます。

と、ここまで書いたところで改めて思いましたが、
入国管理局が告発したのであれば、ほぼ確実に「外国人の不法滞在」容疑での逮捕が最終目的と考えられます。

そうなると、記事にあるように、警察は本当にスクラップの販売ルート解明を狙っているのかどうか疑問です。

経営者自身が不法滞在だったのか、あるいは不法滞在者を雇用していたのか等の証拠収集が狙いだったのではとも思います。

いずれにせよ、不法滞在の外国人が就労する場所としてスクラップヤードが多いことは周知の事実ですので、廃棄物処理法違反の取締りが主目的ではないものの、スクラップヤードへの捜査が増えていきそうです。

くしくも、これまた無許可営業規制というよりは、火災等の事故発生防止が主眼ではありますが、廃棄物処理制度専門委員会報告書(案)でも、スクラップヤードの届出制度の創設が今後必要な対策として挙げられているところでもあります。

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