ESG投資の真価が問われる事件

個人的には、ESG投資という理念には大きな疑念を抱いております(苦笑)。

「環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資」という理念自体は素晴らしいと思いますし、大いに賛同するところもありますが、
果たして、投資という営利を目的とした活動において、その理念を徹底させる組織がどれほどあるのかという疑念です。

最近流布されている風説(笑)には、「ESGに配慮した企業群の方が企業パフォーマンスが良い」というものがありますが、
恣意的にデータを選べば、企業パフォーマンスなどは簡単にねつ造できますので、無批判に受け入れるのは危険と思われます。

言いたいことは、投資の判断基準として、ESGを重視すること自体には異論がありませんが、
「ESG原理主義」とも言うべき、「ESGに取り組まないと倒産する」とか「ESGだけで投資判断は十分」という極端な思考パターンに、真面目な人ほどはまりやすい傾向にある点です。

さて、前置きが長くなりましたが、そのESG投資なる理念の実効性を計るうえで格好の題材となる事件が起こりました。

2018年10月27日付 朝日新聞 「山小屋業者、エコパークに不法投棄か 静岡の南アルプス

 国際的に貴重な自然の保護・活用を目指す「エコパーク」に登録された静岡市北部の南アルプスで、登山客向けの宿泊施設を運営する会社が、施設から出たごみの焼却灰などを繰り返し山中に投棄していたことがわかった。会社は朝日新聞の取材に「灰はずっと以前から捨て、5、6年前から生ごみも一緒に穴に入れていた。(現場の)作業員の判断だった」などと説明。ごみを回収し、処分する方針だとしている。静岡市は、廃棄物処理法違反の疑いがあるとみて調査を始めた。

 静岡市によると、許可を得ていない場所でのごみ投棄は同法で禁じられ、肥料にするなどの目的がない限り、私有地でも違法となる。焼却灰も廃棄物にあたり、知事や市長の許可を得た業者に運搬や処分を委託する必要がある。市は25日に現地調査を実施。廃棄物対策課の担当者は「灰や生ごみを確認した。今後、会社に聞き取って対応を検討する」としている。

 投棄現場はJR静岡駅の北約50キロの同市葵区田代の大井川沿いの山中で、東証1部上場の製紙会社「特種東海製紙」(本店・静岡県島田市)の所有地。約1キロ西側に、市が宿泊棟など一部を所有し、同社の関連会社「特種東海フォレスト」(同)が運営する「椹島(さわらじま)ロッヂ」(定員180人)があり、ロッヂの従業員が投棄をしていた。

 フォレスト社によると、従業員は直径2~3メートル、深さ1メートルほどの穴に、ロッヂや、静岡県や静岡市が所有し、同社が管理する山小屋から出たごみの焼却灰を捨てていた。また、約5年前からは登山客が増える時期に生ごみの処理が追いつかなくなり、焼却せずに穴に入れていたという。

 フォレスト社の仲田勝利事業開発部長は「生ごみは燃えにくいという思いから、作業員の判断でそうしたのではないか。違法だという認識はなかったと思う」と説明。「穴にある生ごみは回収して焼却するなどし、灰も山から下ろして処分の仕方を検討する」と話した。

東証一部上場企業の関連会社が、自然環境の真っただ中の山小屋で不法投棄をしたという、絵に描いたような「ガバナンス機能不全」事例です。

「生ごみは燃えにくいという思いから、作業員の判断でそうしたのではないか。違法だという認識はなかったと思う」という言い訳になっていない言い訳には、近年現れた不祥事案件の中でも非常に高いレベルの独創性があります。

「生ごみの処理」などは、山小屋管理の基本中の基本となる作業であり、現場の作業員の独創性が発揮される分野ではなく、管理者が定める管理規定が本来ならあるはずです。

それが無かったからこそ、「作業員の判断でそうしたのではないか」という作業員のモラルや知識の欠如として片付ける、極めて他人事感あふれるコメントが生まれたものと思われます。

さて、ここまでわかりやすいESG投資の理念に反する事件が現れてくれましたので、同投資の実効性や効果の程をこれからじっくり観察させていただきます。

このエントリーを含むはてなブックマーク

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントをどうぞ

このページの先頭へ