忖度という名の無責任
公共工事発注者の自治体職員が不法投棄容疑で逮捕されるという珍しい報道がありました。
2021年11月18日付 朝日新聞 「工事現場に産廃混じった土 435トン投棄容疑で市職員ら書類送検」
埼玉県富士見市が進める道路工事現場に産業廃棄物が混ざった土を適切に処理しないまま敷き詰め、産廃約435トンを不法投棄したとして、県警は18日、工事監督員を務める市の男性職員(50)と工事を担当する市内の建設会社の男性社員(51)ら4人を廃棄物処理法違反の疑いで書類送検し、発表した。捜査に支障があるとして認否は明らかにしていない。
市などによると、産廃が見つかったのは長さ約300メートル、幅18メートルの「富士見橋通線」(富士見市水子)の工事現場。第1工区と第2工区に分かれ2020年4月に工事が始まったが、第2工区に産廃が入った土が敷かれていることに地権者側が気づき、市に撤去を要望。市は昨年10月に工事を停止していた。
発注者である自治体の職員が不法投棄という危ない橋を渡った理由がよくわかりませんでしたが、朝日新聞の記事の続きを読むと、その理由がおぼろげに浮かび上がってきました。
市は着工前の地質調査で第1工区の土中に産廃が埋まっていることを確認。数十年前に何者かが投棄したとみられるが、県警は市などが第2工区の盛り土としてこれらの土を再利用する際に適切な処理がされず、産廃が残ったままの状態で第2工区に敷き詰められたとみている。
市側はこれまでの取材に対し、「処理はしたが、不十分なまま使ってしまった」などと説明。建設会社の担当者は「工事はすべて市の指示通りに行っていた」としていた。
以下のような経緯になるようです。
1.第1工区の土中から、過去に投棄された廃棄物が出てきた
2.第1工区に埋まっていた廃棄物を掘り出す
3.掘り出した廃棄物から土砂を分離し、その土砂のみを第2工区の盛り土として再利用することになった
この「3」の工事現場での簡易なふるいだけでは、細かい木くずや廃プラスチックの完全な除去は困難であるため、不完全な選別(ふるい)のまま、廃棄物混じりの土砂を盛り土として使用してしまったようです。
※注 現実には、こうした簡易ふるいでは廃棄物の完全除去はほぼ無理です。そのため、一部の小さな廃棄物が土の中に残り続けることとなりますので、そのような土を埋め戻し材等に再利用することは、通常認められていません。
この結果だけを捉えると、「不法投棄」と形容すべき状況に見えます。
問題は、「誰がそれを指示したか?」です。
通常の工事であれば、発注者が不法投棄を指示するような事態は想定し難いわけですが、中にはそういった実例が存在することも承知しております(苦笑)。
ただし、発注者自身が不法投棄を指示するような事態は、やはり「よほどアレ」な発注者しか企図しないものであり、元請か下請の主導で建設廃棄物が不法投棄されるということが一般的な状況です。
しかるに、公共工事の場合は、「想定していなかった埋設廃棄物」という未知のリスク要因の出現により、発注者が「埋設廃棄物の処理コストは極力掛けたくない」「ならば、工事現場でふるいにかけ、土だけを分け再利用すれば良いんじゃね?」と、考えるようになったとしても不思議ではありません。
ここで本題の「誰がそれを指示したか?」に戻りますが、
発注担当者なり、工事監督員なりが「形式的にふるいに掛けた後は、少々ゴミが混じっていたとしてもそのまま盛り土として使ってくれ」と、明確に指示したならば話はわかりやすいのですが、
実際には、工事関係者が互いにお互いを忖度し合った結果、誰かが明確に指示したわけではなく、誰も違法であると気づかずに、廃棄物混じりの残土を盛り土その他に再利用するという状況がよく起きます。
具体的にはこのような経緯です。
と、このように、目の前の廃棄物処理のみを優先した軽率な行動の積み重ねであったのではと推測しています。
行政と建設会社が結託した「越後屋~おぬしも悪よのう」的な、犯罪とすぐわかる話なら断罪も簡単ですが、実態はそうではなかったと思います。
「部分最適」の達成のみに拘泥すると、「忖度のし合い」が容易に犯罪に結びつくことに、我々全員が注意すべきなのでありましょう。
« 第41回「第39条 自主回収・再資源化事業計画の認定」プラスチック資源循環促進法 許可後の許可基準に適合しない状態(平成5年3月31日付衛産36号より抜粋) »
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2021年11月24日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
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