できない理由探しは頭の良さに非ず

2022年2月21日付 日本経済新聞 「不用品回収 トラブル多発 高齢者、自力で運べず 無許可業者が高額請求も

不用品回収を依頼したら、作業後に法外な料金を請求された――。こんなぼったくり被害が全国で相次いでいる。家具や家電などの不用品は市区町村が処分する「家庭ごみ」に分類され、回収できるのは自治体から許可や委託を受けた業者などに限られる。高齢化などで需要の高まりに行政サービスが追い付かず、悪徳業者に付け入る隙を与える形になっている。

名古屋市熱田区の不用品回収会社の社長らは、愛知県岡崎市の60代男性に「10万円以下」と約束したのに、不用品をトラックに積み終えた後に33万円を脅し取ったとして、1月に恐喝の疑いで逮捕された。

愛知県警によると、社長らはインターネット上で「追加料金なしでトラック積み放題」などと宣伝。県警が押収した見積書には18万5680円から4万円に値引きした形跡があり、料金が言い値だったことがうかがえる。社長らは今月、無許可で不用品を回収したとして、廃棄物処理法違反の疑いで再逮捕された。

弱者の弱みにつけ込み、法外な暴利をむさぼる事業者は、単なる「無許可業者」ではなく、特殊詐欺と同様の反社会的勢力と位置づけ、捜査機関による迅速な摘発が必要な時代になったように思います。

廃棄物処理業の無許可営業は、許可の有無が外形的に容易に判別可能ですので、詐欺事件の立件よりも容易なように思われます。

無許可業者によるトラブルの類型としては、今回のような「高額請求」が典型的な事例ですが、その他「不法投棄される」ことがよくあります。

「誰でもすぐに簡単に始められる事業」と、誤った認識を持つ不心得者が多いためか、不要品を集めるだけ集めて、公道や駐車場にドカンと不法投棄という、極めて杜撰な犯罪を報道で目にする機会が増えています。

さて、この問題の構造は驚くほど単純で、
「個別回収に対応する正規サービスが存在しないという隙間を、悪徳業者が埋めている」に過ぎません。

そのため、解決も実は簡単で、「正規サービス」の受け皿を整備すれば、好き好んで暴利業者に依頼をする消費者はいなくなります。

では、何をもって「正規サービス」とするかですが、
一番わかりやすいケースは、「市区町村の直接回収」です。

しかしながら、このケースでは、人口が少ない自治体ならまだしも、市規模の人口になってくると、行政職員のマンパワーが当然足りてこないことになります。

そこで、現実的には、「一般廃棄物収集運搬業者の数を増やす」か「一般廃棄物収集運搬の委託先を増やす」のいずれかに頼る必要があります。

もっとも、「一般廃棄物収集運搬業者の数を増やす」以前に、「現状の一般廃棄物収集運搬業者が個別の回収に応じてくれる」と理想的ですが、
家具などの大きな粗大ゴミを、個別の家庭を訪問し、それを回収車両まで運び出すことは、収集運搬業者の既存のマンパワーでは不可能なことがほとんどです。

単純に一般廃棄物収集運搬業者を増やそうとすると、「平成26年1月28日最高裁第三小法廷判決」で、「廃棄物処理法において、一般廃棄物処理業は、専ら自由競争に委ねられるべき性格の事業とは位置付けられていない」とされているので、「新規業者への門戸開放はダメ!ゼッタイ」と、思考停止をする自治体が多いのではないでしょうか。

このような経緯で、行政は対応せず(できず)、既存の収集運搬業者も対応できないところがほとんどであるため、反社会勢力が跳梁跋扈しています。

「正規サービス」を整備しようとしても、現状追認型、そして前例踏襲思考の法解釈では、「行政できない」「許可業者もできない」「だから何もできない(しない)」と、出口の無い思考ループで終わってしまいます。

ここはやはり思考を少しだけ柔軟にし、「正規サービスの受け皿になり得る者は誰か?」をまず考えてみることが必要です。

既存の許可業者にしても、粗大ゴミの各戸直接回収は、労力が掛かる割にはメリットがほぼ無いわけですから、「粗大ゴミの各戸直接回収だけに限定して」門戸を開くことにはほとんど抵抗がないものと思います。

運ぶ対象が家具などの粗大ゴミであることを考えると、「引越事業者」なら、現状の事業設備と人員ですぐに対応できそうです。

あるいは、近年、「遺品整理」等に限定して、遺品整理事業者に一般廃棄物の運搬を許可している自治体が増え始めていますので、その許可手法を準用することも可能でしょう。

もっとも重要なことは、「一かゼロか」の二元論で「対応不可能」と断じるのではなく、

粗大ゴミのステーション回収は従来どおり無料か一定の料金で、
直接訪問の上、運び出しまで必要な場合は、そこそこの回収料金と、
住民の状況やニーズに応じて、きめ細やかなサービスメニューを設定することだと考えます。

「できない理由」を挙げることは、誰でも簡単にできます。

行政当局の皆様におかれましては、「現状の法制度において、どうすれば問題が解決できるか」を頭に汗をかいて考え抜いていただくことを期待しております。

このエントリーを含むはてなブックマーク

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントをどうぞ

このページの先頭へ