やりたくない事情

「行政処分評論家」を自称する身としては触れざるを得ない行政処分事例が公表されました。

2022年3月18日付 高知県発表 廃棄物の処理及び清掃に関する法律に係る行政処分について

取材ポイント
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく産業廃棄物収集運搬業及び特別管理産業廃棄物収集運搬業の業務停止処分を行ったので、情報提供します。

内容

1 事業者(被処分者)の氏名又は名称(住所)
(筆者注:社名と代表者氏名は転載の際に省略しました)

2 許可の番号
(筆者注:許可番号は転載の際に省略しました)

3 処分の期間
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「法」という。)
 第14条の3第1項第1号及び第14条の6による産業廃棄物収集運搬業及び特別管理産業廃棄物収集運搬業の事業全部停止30日間
 ○ 令和4年3月19日から同年4月17日まで

4 処分の理由
 (被処分者)は、高知県中央東土木事務所及び高知県立埋蔵文化財センターなどの南国市内の事業所から排出された蛍光管等の産業廃棄物を事業系一般廃棄物として収集したうえ、本来であれば、処分業者等まで運搬して適正に処理しなければならないところ、長期間にわたって自社の敷地において不適正に保管し、廃棄物の周囲への飛散や汚水の発生などの生活環境保全上の支障を生じるおそれがあったことから、令和3年10月に全量撤去の措置命令を発した。
 廃棄物の撤去は、本年2月に完了したものの、産業廃棄物を事業系一般廃棄物として、産業廃棄物管理票の交付を受けずに収集する行為は、虚偽の管理票の交付等の禁止(法第12条の4第2項違反)に該当し、また、県知事から産業廃棄物収集運搬業の事業範囲の変更の許可を受けずに保管を行った行為は、産業廃棄物処理業の無許可での事業範囲の変更に該当するため。(法第14条の2第1項違反)
 (※ 排出事業者に対しては、令和3年10月に文書による行政指導を実施済)

排出事業者である高知県の行政機関が、廃蛍光管を「事業系一般廃棄物」と誤認して収集運搬委託したことが問題の発端です。

仮に、この排出事業者が民間企業であったならば、即座に告発されていたかもしれません(苦笑)。

今回は、積替え保管の許可が無いのに、事業地に産業廃棄物等を溜め込んだ業者に対し、措置命令の後に「事業の全部停止処分」が科されたことになります。

刑事罰の重さとしては、「産業廃棄物管理票の交付を受けずに収集する」ことよりも、「産業廃棄物処理業の無許可での事業範囲の変更」の方が断然重くなります。

「産業廃棄物管理票の交付を受けずに収集する」は、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金(廃棄物処理法第27条の2)」ですが、
「産業廃棄物処理業の無許可での事業範囲の変更」は、「5年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金またはこの併科(廃棄物処理法第25条)」だからです。

環境省が5年前の法律改正にもかかわらず、いまだに改定していない通知に基づくと、
「産業廃棄物管理票の交付を受けずに収集する」は、「事業の停止30日間」
「産業廃棄物処理業の無許可での事業範囲の変更」は、「許可の取消」
という目安が示されています。

そのため、今回の行政処分は、より軽い違反に対するペナルティしか科されておらず、罰則が重い違反については、事実上不問に付されています。

わかりやすく言い換えると、
「詐欺をした人間が、詐欺被害者に迫られたのでその被害者を殺してしまった」場合に、「殺人罪」には問わずに、「詐欺罪」のみで裁くようなものです。

一般常識としては有り得ないですね(苦笑)。

少しややこしいのが、被処分者は、産業廃棄物収集運搬業者であると同時に、ご当地高知県南国市の一般廃棄物収集運搬業者でもあるところ。

この一般廃棄物と産業廃棄物のダブルライセンス業者であった点が、「事業の全部停止処分」という不可解な結末の理由となった気がします。

高知県から産業廃棄物収集運搬業の許可が取りされると、南国市も一般廃棄物収集運搬業の許可を取消さざるを得なくなり、
そうなると、南国市の一般廃棄物収集運搬業者4社が3社に減ってしまうため、南国市内の事業系一般廃棄物の処理に著しい支障が発生する
ことを恐れ、「事業の全部停止処分」というソフトランディング(?)を選択したのではないかと考えます。

「措置命令」の履行後に「事業の停止」を行っていることも残念です。

環境省は、「行政処分の指針について」という通知で、

産業廃棄物処理業者が不法投棄等の重大かつ明白な違反行為を行っているにもかかわらず、原状回復責任を全うさせること等を理由に許可の取消処分を行わず、事業停止処分等にとどめる事例が見受けられるが、当該運用は、不法投棄等の違反行為を事実上追認するものであり、適正処理を確保するという許可制度の目的及び意義を損ない、産業廃棄物処理に対する国民の不信を増大させるものであるばかりか、違反行為による被害を拡大させかねないものであることから、著しく適正を欠き、かつ、公益を害するものである。したがって、こうした場合には、躊躇することなく取消処分を行った上で、原状回復については措置命令により対応すること。

と、かなり強い口調で、迅速かつ厳格な行政処分を科すことを求めています。

自治体職員のほとんど全員がこの通知の存在を知っているものと思いますが、意図的に「理解を改変」しているケースがままありますので、原点(原典)に立ち返ってみることをお奨めします。

このエントリーを含むはてなブックマーク

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントをどうぞ

このページの先頭へ