事業化の教科書のような好例

「小さく始めて、大きく育てる」ことがもっとも手堅い事業化のステップですが、それを地で行く非常に手堅い事業計画の公表がありました。

20231年5月25日付 LOGI-BIZ「武田薬品が医薬品包装廃材の輸送で鉄道貨物にモーダルシフトへ

武田薬品工業とオリックスグループで産業廃棄物処理を手掛けるオリックス環境、JR貨物は5月25日、武田薬品が製造する医療用医薬品の製造過程で生じるPTP(Press-Through Package、プラスチックシートにアルミを張り付けた1枚のシートの中に、錠剤やカプセルを閉じ込めている)包装廃材のリサイクルと輸送で、環境負荷低減に向け連携すると発表した。

6月1日から武田薬品が製薬企業としては国内で初めて、廃棄物処理委託によるPTP包装廃材の再生利用(マテリアルリサイクル)と輸送手段のモーダルシフトに乗り出す。オリックス環境は連携するに当たり、今年5月に日本初のPTP包装廃材などの剥離に伴う産業廃棄物処分業の許可を取得した。

3社が連携し、武田薬品の光工場(山口県光市)から排出される年間約101tのPTP包装廃材のうち、95%程度に相当する約96tを再生利用する予定。

「薬シート」は、「プラスチック」と「アルミニウム」の2種類の材料の混合製品ですが、従来、「プラスチック」と「アルミニウム」を分離することが難しかったそうです。

しかし、それを可能にする技術自体は既に開発されており、オリックス環境は特許取得者と提携することで、PTPシートの処分事業に乗り出したとのこと。
2023年1月23日付 東京新聞 「アルミとプラに分離してリサイクル 薬の包装シート回収進む 横浜で実証実験始まる

※記事タイトルの横浜での実証実験ではなく、オリックス環境の千葉県船橋市での事業計画に関する部分を抜粋

 廃棄物処理業のオリックス環境(同)は昨年十一月、アルミニウムとプラスチックに分離する技術の特許を持つ大同樹脂(長野)と提携し、千葉県船橋市の自社工場を拠点にシートのリサイクルを事業化すると発表した。各地の製薬工場で出た余剰シートを引き受ける計画で、年間千トン程度の処理を見込む。営業部の滝本智明さん(48)は「製薬会社の期待を感じる。なんとか軌道に乗せたい」と意気込む。

資源として年々希少性が増す「アルミニウムの分離と再利用」というところがポイントかと思います。

特許取得者に利益が還元され、PTPシートのリサイクルが進むのであれば、世の中全体にとっても良い話です。

再び、LOGI-BIZの記事に戻ります。

オリックス環境は今年1~3月、剥離設備を使って武田薬品のPTP包装廃材の実証実験を実施。その結果、プラスチックとアルミニウムを完全に剥離し、再生利用できることを確認した。

PTP包装廃材の輸送はこれまでのトラック輸送に代替し、武田薬品の光工場からオリックス環境の産業廃棄物処理工場(千葉県船橋市)への輸送の大部分でJR貨物による鉄道輸送へ切り替える。具体的には、武田薬品光工場でPTP包装廃材をJR12ftコンテナに積載して、新南陽駅(山口県周南市)から隅田川駅(東京都荒川区)まで貨物鉄道輸送する。

PTPシートは、ペットボトルほどではありませんが軽すぎるため、小口の車両回収は不適と言わざるを得ませんが、腐敗するものではないので、製薬工場で可能な限り保管し続け、鉄道コンテナで一挙に運搬という点も素晴らしい!

次の展開としては、製薬工場のみならず、市中の薬局や医療機関から回収することも視野に入っているのではないでしょうか。

この場合、環境大臣の広域認定が最適のスキームとなりますが、「市中からPTPシートを回収する手段をどうするか」が最大の難題となります。

先述したとおり、PTPシート自体は非常に軽いため、小口のまま回収に回ることは不経済となるからです。

「薬品納入後の帰り便」「医療機関その他が自らで持ち込み」等々、色々な手段を用いて小口回収の不経済を解消できれば、オリックス環境が国内のPTPシートリサイクルを一手に握ることも可能かもしれません。

特許技術を自社陣営に有することが最大の強みですね。

「小さく始めて」とは言ったものの、大企業であるオリックス環境だからこそ可能だった、決して小さくはない投資だったとは思いますが、「事業化までの手順」としては、他の産業廃棄物処理企業にとっても等しく参考になる好事例でした。

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