あなたは”紙”を信じますか?

「再資源化事業高度化法」の逐条解説に勤しんでいる最中ですが、非常に扇情的な報道を目にしましたので、ツッコミを入れておきます。

2024年3月21日付 TBS 「“胎盤”や“血液”を処理せず長年放置「感染性廃棄物」処理請け負う廃棄物処理会社「処理した」とウソの報告も「前代未聞の事態」に渦中の社長に直撃取材

見出しから、「胎盤」「血液」と、スプラッター映画の1シーンを彷彿とさせる描写です。

宮城県の産業廃棄物処理会社で、病院から出た胎盤や血液などの「感染性廃棄物」が長年処理されず、放置されていたことがJNNの取材で明らかになりました。廃棄物の処理過程を管理する「マニフェスト」を偽造し、「処理した」とウソの報告も。「前代未聞の事態」。対応に追われる病院は…。そして、記者の直撃取材に会社の社長は…。

簡単に事件の概要をまとめておくと、
「宮城県の特別管理産業廃棄物処分業者が、実際には処分が終了していないにもかかわらず、産業廃棄物管理票に「処分終了」と虚偽記載し続け、宮城県から業許可を取消された」となります。

「件の業者が空マニフェストを発行し、それを流通させた」という事情が無いのであれば、「マニフェストの偽造」という表現は不正確だと思われます。

記者の方は、一応宮城県の事件現場に取材に行ってはいるものの、廃棄物処理法の基礎的な知識を持たずに取材に入ってしまったようで、取材対象者のコメントを鵜呑みにしてしまっています。

その最たる例が、見出しにも入っている「前代未聞の事態」です。

大変残念なことではありますが、こうした産業廃棄物管理票の虚偽記載事件自体は非常にありふれたもので、決して「前代未聞の珍事」ではありません。

感染性廃棄物だけに限定しても、わざわざ報道されていないだけで、地方自治体が医療監査に乗り込めば、この手の違反はゴロゴロ発覚するはずです。

また、15年以上前の話になりますが、そこそこ有名だった感染性廃棄物処理業者が、注射針その他を外国に不正輸出していたことが発覚し、当時の業界内を震撼させた実例があります。

率直に申し上げて、不正輸出の場合、単なる虚偽記載よりもかなり悪質な法律違反だったと思います。

報道の中でもっとも違和感を持った部分は

宮城県内の病院 担当者
「こっちとしては、そんな急に言われて、そんなどうしたらいいのかっていう形で。数十年にわたり不正をしていた可能性があると聞いているので、それなのに数年おきに認可の更新の許可をしていたわけですから、行政側は。責任を病院側に押しつけているようで納得いかないというのが本音です

病院側の「我々は被害者である」という思いが伝わってくるコメントです。

行政が法律違反の兆候を見抜けたかどうかはさておき、
委託した産業廃棄物の処分が実際には完了していない以上、廃棄物処理法では、排出事業者である病院の責任が問われて当たり前です。

ひょっとすると、多くの排出事業者が、産業廃棄物管理票の発行自体を業者任せにしていたのかもしれません。

言うまでもなく、産業廃棄物管理票の発行(交付)は、排出事業者固有の義務であり、「処理業者任せにしていた」という言い訳が通用することはありません。

実際の虚偽記載の状況を示す画像が、TBSの報道では紹介されていました。

まず、「受領欄」に「業者名」と「処理済 滅菌」というスタンプ印が押されていますが、ここは、「運搬担当者個人」あるいは「処分担当者個人」が、「産業廃棄物を受け取りました」という事実を証明するためにサインや押印をする場所です。

※「運搬担当者」が「砂押 プラリ」という名前の方だったならば適法。

産業廃棄物の受取りと同時に記名押印する欄ですので、受け取った瞬間に「滅菌」することは物理的に不可能なのです。

こういう記載というか押印をする業者も業者ですが、そのおかしさに気付くことなく、紙切れを有り難く保存することしかしなかった排出事業者の重過失でもあります。

この状況下で、排出事業者として法的に取るべき対処法は、

「受領欄」に「処理済み」というスタンプ印が押された産業廃棄物管理票が返ってきた時点で、
即処理業者に「何ですか?これは~」と詰問し、
宮城県知事に、虚偽記載された旨の「措置内容報告書」を提出

でした。

ここは産業廃棄物管理票の法定記載事項ですので、おざなりにしてはいけない箇所です。

また、「運搬終了年月日」と「処分終了年月日」が空欄のように見えます。

ただし、これは画像撮影のアングル上の問題かもしれませんので、真偽のほどは、産業廃棄物管理票全体を写した画像を見ないことにはわかりません。

最後に、「滅菌」とあることから、件の処分業者の処理方法は「滅菌」だったと思われますが、
「滅菌」は、あくまでも「滅菌するだけ」ですので、滅菌後に廃棄物自体が消えて無くなるわけではありません。

そのため、中間処理(滅菌)後には、必ず「残さ」が残り、それを再び「焼却施設」等に運び、改めて減量化する処理が不可欠となります。

である以上、この病院が発生させた感染性廃棄物の処分は、「滅菌」で終わりではなく、「滅菌後の残さの最終処分場所」を明記した産業廃棄物管理票E票が返送されてこない限り、最終処分終了とはなりません。

病院と滅菌処理業者との契約においても、「滅菌処理後の残さの最終処分場所」が法定記載事項として書かれていたはずですし、書かれていなかったのであれば、排出事業者は委託基準違反で刑事罰の対象になります。

こうした産業廃棄物管理票の基本的な事項をまったく守っていなかったのであれば、委託者である病院は、排出事業者としての責任を果たしていなかったと言わざるを得ません。

自らの責任を把握していなかった病院と、踏み込みの甘すぎる報道をしたテレビ局の猛省を促したいと思います。

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