何度も繰り返し言いますが、不適正処理は儲かりません!

典型的な不法投棄事件に関するニュースですが、多方面にツッコミどころのある報道ですので、適宜報道内容を引用しつつ、問題点を指摘していきます。

なお、容疑者の氏名についてはこちらで紹介する意義がありませんので、すべて引用から外しております。

2024年5月8日付 読売テレビ 「「金になると思い」無許可で産廃処分容疑で男逮捕 背景に業界の構造も「不適正処理した方が儲かる」

 産業廃棄物の処分などを無許可で請け負い、大阪府泉南市に捨てていたとして解体業の男が逮捕されました。一般の人が使う道路をふさぐなどの被害も出ている産業廃棄物の不法投棄。どうしてなくならないのでしょうか。

(中略)

 警察によりますと、容疑者は昨年10月ごろ、大阪府内の住宅工事で出た瓦などの産業廃棄物の処分や運搬を府の許可を得ずにリフォーム業者から請け負っていた疑いが持たれています。

 産業廃棄物は、泉南市内にある容疑者の会社の敷地内に野積みされていて、一昨年には、隣接する他人の敷地に大量の産業廃棄物がこぼれ出ていたこともありました。

読売テレビの報道映像を見ると、それほど広くはない敷地いっぱいに、粉々のスレート板やフレコンパックが所狭しと敷き詰められています。

自社の土地とは言え、処分するつもりがない産業廃棄物を大量に放置し続けると「不法投棄」になりますが、産業廃棄物処理業の許可無しで他者が発生させた建設廃棄物の引受けもしていたのであれば、その引受けは「無許可営業」となります。

さて、テレビ局が容疑者に直接取材をしたところ、容疑者は次のように正当性を主張したそうです。

僕はれっきとした建設業なので、これをやっつけちゃえば、とやかく言われることも無いので。(Q、全く問題ないか?)そうですね」

自社が発生させた産業廃棄物”だけを”保管していた場合なら、この主張も成り立ちます。

しかし、上述したように、「無許可営業」かつ「保管ではなく放置」していた場合は、「(行政及び警察から)とやかく言われる」ことになります。

少し気になった点は、「建設業者なら建設廃棄物を自社敷地内に放置しても許される」と、頭の片隅で考えた人がいたという事実です。

容疑者が本当にそう思っていたのか、それともただの方便なのかはわかりませんが、解体業者の中には、いまだにこのように捉えている人が居る可能性を示唆しているように思えます。

もちろん、大部分の解体業者が適切な施工管理と廃棄物処分を実行しているものと信じておりますが、残念ながら、少なくない数の不心得者が存在することもまた事実かと思います。

個人的にもっとも違和感を感じた部分は、

「排出事業者が不当に廉価(安い価格)で処理を委託している場合は、その不法投棄がなされた時の浄化責任、措置責任というものを排出事業者に負わせるという廃棄物処理法の改正も行われているんですね。ただ、実際にまだ全然適用されていないんですよね。そもそも廃棄物って不適正処理したほうが儲かるという、そこの性質を変えていかざるを得ない」

という上智大学の織教授のコメント部分

このコメントは「廃棄物処理法第19条の6の措置命令」に関する内容ですので、おそらくはテレビ局が織教授のコメントの後半部分だけを切り取ったものではないかと邪推しています。

と言いますのも、不適正処理対策でより実務的に重要な条文は「廃棄物処理法第19条の5の措置命令」ですので、テレビ局が削除した(と私が邪推する)織教授の前半部分では、条文の順序から言っても先に「第19条の5の措置命令」に言及されていたのではないかと考えられるからです。

中央環境審議会委員である有識者が「実際にまだ全然適用されていない」という不条理なまとめ方をするとは、どうしても思えないのです。

第19条の6の措置命令は、全国的には発出件数がいまだに0件ですが、
第19条の5の措置命令は、この20年間でもかなりの数が発出され、排出事業者への責任追及が行われています。

また、

廃棄物って不適正処理したほうが儲かる

という部分については、コメントの一部分だけを切り取っての反応とはなりますが、断固として「否」と言わせていただきます。

ここだけを読むと、「不法投棄ってそんなに儲かるのか!?ウホッ!」と考える人が現れないとも限りません。

しかし、実態としては、

警察の調べに対し、容疑者は「やってはいけないこととはわかっていました。金になると思い、一般的な価格より安く処理を引き受けた」などと一転して容疑を認めているということで、警察は詳しい経緯を調べる方針です。

容疑者自身が「一般的な価格より安く処理を引き受けた」と認めているとおり、無許可業者は正規業者よりも安い金額でしか引受けられません。

当たり前の話ですが、ぼったくりバーならいざ知らず、モグリ業者が正規業者よりも高い価格設定ができるわけがありません。

また、そうして安く引き受けた産業廃棄物は、時間と共に消滅することは有り得ませんので、産業廃棄物の存在を隠す、あるいは消すためには、「壁などで囲って他人の目を遮断する」「土中に埋める」「どこかの土地に捨てる」の3択しかありません。

どの方法も少量のゲリラ的な手法であれば、発覚する確率は減りますが、回を重ねるごとに、そして廃棄物の量が増えるごとに、発覚する確率は上がっていきます。

そして、隠すにせよ、外部に運ぶにせよ、いくばくかの手間とコスト、そして時間が必要となりますので、それらのコストを賄うために産業廃棄物の引受けを増やすという悪循環に陥り、警察に逮捕されるまで不適正処理が止められないという、行為者自身を含めた全方向に害悪となる「不適正処理依存症」のような状況が続くことになります。

このように、不適正処理は一度手を染めたら止められなくなる犯罪でもありますので、犯罪者のたどる末路はどれも「儲け」とはほど遠いものになります。

非常に重要なことなので、最後にもう一度言います。

不適正処理は儲からないので、ダメ 絶対!!

余談 排出事業者への責任追及はある?

「これだけ細切れに産業廃棄物がばらけていれば、その排出事業者をたどる術は無いので、排出事業者に責任追及がかかることも無さそうだ」と考えた方はいなかったでしょうか?

実際には、そうは問屋が卸しません。

報道映像には含まれていませんでしたが、容疑者の逮捕以前に、警察が事務所の家宅捜索を行い、多数の帳票や書類、携帯電話の通話記録等、犯罪事実を示す可能性がある証拠を押収しているはずですので、非常に高い確率で、それらの証拠から依頼者と思しき排出事業者の情報が割り出されます。

もう既に、警察と大阪府庁(産業廃棄物部局)が、割り出された排出事業者に対し、報告徴収(廃棄物処理法第18条)や撤去要請等を行っているかもしれません。

容疑者への委託事実があるにもかかわらず撤去要請に応じない排出事業者は、「無許可業者への委託」という委託基準違反をしていることになりますので、廃棄物処理法第19条の5の措置命令の対象から逃れることはできません。

ちなみに、「無許可業者への委託」は、廃棄物処理法第25条の「5年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金、または併科」という刑事罰の対象にもなります。

仮に、容疑者が許可業者で、なおかつ排出事業者が委託基準に違背することなく適切に委託をしていた場合は、排出事業者は第19条の5の措置命令の対象にならないところでした(第19条の6の措置命令は別)。

しかし、相手が無許可業者である以上、委託契約書や産業廃棄物管理票をそもそも取り交わせる相手ではないので、処理委託をした時点で排出事業者に委託基準違反が成立しており、「不法投棄容疑で摘発」が「排出事業者への措置命令(第19条の5)の対象へ」と直結し、一瞬にして、排出事業者は言い逃れができない状況へと追い込まれることとなります。

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