隣の芝生は青く見えるもの

物流業界誌に興味深い記事が掲載されていましたので引用します。

物流Weekly 一歩も二歩も先ゆく産廃業界 事故減へ責任の所在を明確に

 産業廃棄物の関連事業も手掛けている岡山市の運送会社社長は「かつてバカにしてきたゴミ屋が着実に成長する一方で、相変わらずトラックは底辺の仕事に甘んじている」とぶちまける。

いきなり職業差別的な表現で始まり、それが自虐につながるというなかなか高度な表現です。
「廃棄物処理“業界”が着実に成長」しているのではなく、ほんの一部のセンシティブな処理企業が着実に成長しているだけです。

 関越道バス事故の実態解明にメスが入れば入るだけ、零細なトラック事業者の経営ぶりが重なって見える。異常なまでに安さを求めれば、どこかにひずみが生じる。長時間労働や、いびつな労使関係の個別調査とは別に、そうした実態が特異ケースとはとらえられない業界が抱える根本に踏み込まない限りは、悲惨な事故が今後も続く可能性は否定できない。

厳しい言い方ですが、安さでしか差別化できないということは、誰がやっても同じ仕事ということです。
なんら難しい話ではなく、それが「業界が抱える根本」です。

同じ土俵で値下げをし続けるか、違う土俵での生き方を見つけるか、の二者択一で選択する自由があるとも言えます。

 「最近は産廃の関係者と話す機会が増えており、いい刺激を受けている」と岡山市の社長。規制緩和が著しいトラック事業とは違い、公害や不法投棄などの問題もあって事業規制が厳格化される一途だが、「そうかといって既得権益に守られることもなく、みんな必死なのはトラックと同じ。違うのは事業者レベルの意識の高さと、マニフェストによって排出者にまで責任が厳しく問われる点かもしれない」と話す。

繰り返しになりますが、一部の廃棄物処理企業の意識が高いのはそのとおりですが、業界全体で危機感に包まれているかというと、決してそんなことはありません。
しかし、それはどの業界でも同じ話なのではないでしょうか。

一般論としては、マニフェストの存在で排出事業者の責任が問われるというのはそのとおりですが、
いまだにマニフェストを交付しない(できない?)排出事業者がまだまだ多いのも現実です。

 一方、かねて「荷主にも両罰規定の適用が必要」と訴えてきた広島市の運送会社社長も、川下の事業者に責任を押し付けるだけの安全対策に疑問を感じてきた。

 「例えば過積載の両罰規定にしても、それはドライバーと運送会社の両方を罰することだという。本来の両罰というのは運ぶ側と、運ばせた側の双方という意味であるべきだ」というのが主張で、「マニフェストで荷主(排出者)に最終責任を持たせているという意味ではゴミ業界のほうが一歩も二歩も進んでいる」と断じる。

廃棄物処理法でも、排出事業者と処理業者を同時に罰するという両罰規定はありません。
処理業者が不法投棄に関与し、排出事業者に委託基準違反が見つかった場合などは、両罰ではなく、排出事業者自身の違反として罰せられることになります。

運送会社の社長さんの言いたいこともわかりますが、放っておいても目的地に届くことが当然の「貨物」と、法律で排出事業者に処理責任が定められた「廃棄物」では、荷主(排出事業者)に求められる責任がまったく違います。

そのため、「ゴミ業界」が運送業界よりも進んでいるわけではありません。

逆に、廃棄物処理業界からすると、
宅配業者の「運送効率の最大化」や「薄利多売の収益構造」、「ほぼリアルタイムのトレーサビリティ」etc 
真似をしたくても一朝一夕では真似できない、魅力的な資源に満ち溢れています。

安値受注で血みどろの抗争を繰り広げている運送業界から、収集運搬分野に進出するのは簡単そうに見えますが、実際はそうではありません。

上述した「貨物」と「廃棄物」の間の差は、非常に大きいからです。

ただし、その差は現時点では大きいものですが、未来永劫埋めることが不可能なわけではありません。

その方法に気づいた宅配業者などが、収集運搬業界に参入してきたとき
宅配業者は、「ガラパゴス諸島みたいに生存競争が穏やかな業界がまだあったんだな!」とつぶやくのでしょうか?

このエントリーを含むはてなブックマーク

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントをどうぞ

このページの先頭へ