滋賀県が不法投棄に対し改善命令を発出!?

産業廃棄物処分業者による不法投棄に対し、措置命令ではなく、改善命令を発出するという非常に珍しい事例が出ました。

個人的には、「珍しい」では済まずに、「あってはならない的外れな処分」と評価していますが(苦笑)。

2015年7月27日付 滋賀県発表 廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく改善命令について

産業廃物処分業の許可業者である有限会社甲賀建設が、滋賀県甲賀市水口町嶬峨地先に平成23年から平成27年までの約4年間に、受託した産業廃棄物約112,000トン(建設混合廃棄物100,217トン、汚泥12,333トン)を不法に埋立てしていたことが判明しました。

この行為は廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号、以下「法」という。)第14条第12項に規定する産業廃棄物処理基準に適合しない処分行為であるため、法第19条の3の規定により、以下のとおり改善を命じました。

なお、埋立場所周辺の水質分析を行いましたところ、周辺への影響は生じていないことを確認していますので、併せてお知らせします。

1. 被処分者
(筆者注:命令対象者を糾弾することが趣旨ではないので、転載略)

2. 処分年月日
平成27年(2015年)7月27日

3. 改善事項
(1)滋賀県甲賀市水口町嶬峨字西山2533番、2534番、2538番、2539番、2555番に埋め立てた産業廃棄物を全て撤去すること。
(2)上記1により撤去された産業廃棄物は法に従い、適正に処理すること。

4. 履行期限
平成30年(2018年)7月26日

5. 理由
滋賀県甲賀市水口町嶬峨地先の上記土地(位置図(PDF:125KB)参照)に、排出事業者より処分委託を受けた産業廃棄物を過去約4年間にわたり、産業廃棄物処理基準(法第14条第12項)に違反して埋め立てを行ったため。

6. その他
埋立場所の周辺の水路(5箇所)で水質分析を行った結果、調査した項目全てにおいて「水質汚濁に係る環境基準」に定める基準値以下であった。
今後、被処分者に対して、埋立地周辺の水質調査を行うよう指導することにより、周辺環境への影響把握に努める。

「措置命令でも改善命令でも大した違いが無いのではないか?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、法的には、措置命令と改善命令は役割が大きく異なります。

当ブログ 2010年9月9日付記事 「措置命令と改善命令の違い(昭和52年11月5日付環産59号通知より抜粋)」で、既に措置命令と改善命令の違いについて解説していますので、「昭和52年11月5日付環産59号通知」から再び引用します。

問21 廃棄物処理法第19条の2第1項(注:現行法では第19条の5)に規定する産業廃棄物に係る措置命令は、同法第12条第3項(注:現行法では第19条の3)に規定する命令とはどのように異なるのか。

答 廃棄物処理法第19条の2第1項に規定する措置命令は、すでに行われた産業廃棄物の処分に起因する環境汚染を防除することを目的として行われるものである。
 これに対し、同法第12条第3項に規定する命令は事業者に同法第12条第1項及び第2項に規定する基準に適合した運搬、処分又は保管を行わせるために将来に向かって事業者の行う産業廃棄物の処理方法の改善等を目的として行われるものである。

より具体的に言い換えると、

・「現在既に環境汚染が起こっている」または「これから環境汚染を起こす可能性がある」行為に対しては「措置命令」
・「将来に向けて廃棄物処理基準違反を是正させるため」に出すのが「改善命令」
となります。

滋賀県は、行為者の行為について「不法に埋立てしていた」と言及している以上、
当該行為者の行為は、産業廃棄物処理基準違反ではなく、廃棄物処理法第16条違反の「不法投棄」として断罪しなければなりません。

「廃棄物処理基準を守れ」と悠長なことを言っている場合ではなく、いますぐ廃棄物を撤去させ、それを適切に処理させねばなりません。

ちなみに、不法投棄はそれだけで刑事罰の対象となりますが、
廃棄物処理基準違反をしただけでは刑事罰の対象になりません。

廃棄物処理基準違反を罰するためには、まず「改善命令」を発出することで対象者に自主的な改善を命じ、改善命令の内容が遵守されなかった場合になって初めて、改善命令違反として刑事罰の対象となります。

通常の行政運用では、不法投棄に対しては、行為者に措置命令を発出し、強制的に廃棄物の撤去などを行わせています。

また、不法投棄や野外焼却を行政が現認した場合、裁判の確定を待たずに、その事実だけで許可取消を行う自治体も増えています。

滋賀県のサイトを閲覧する限りでは、現時点で、不法投棄実行者の許可取消や事業の全部停止処分を行っていないようです。

その意味でも、今回の滋賀県の行った改善命令は、一般的な行政運用にも合わないちぐはぐな処分と言わざるを得ません。

※2015.8.13 追記
この記事は2015年7月29日に執筆公開したものですが、
2015年7月30日付けで、滋賀県から当該行為者に対する許可取消処分が行われています。
産業廃棄物処理業等の許可の取消しについて

「殺意を持って人を殺した場合」には、「殺人罪」が適用されますが、
取り調べの際に、警察や検察が「殺意は無かったんだよね?あくまでもはずみで相手が死んだだけだよね?」と、親身になって(?)容疑者を誘導していたとしたら・・・

法律の適用を故意に誤らせたことになり、大問題となります。
もちろん、日本の司法機関や捜査機関ではそのような取り調べを行うことはないということを付言しておきます。あくまでも例え話ですので。

不法投棄実行者に対し、措置命令ではなく、改善命令で自主的な改善を促すというのは、殺人犯を過失致死罪に誘導するのと同じ構造になります。

また、命令に「着手期限」を設けず、「履行期限」しか設定していないことも問題です。
しかも、その履行期限が「平成30年(2018年)7月26日」と、寛大にも3年間の猶予期間が与えられています。

これでは、丸々3年間は何も改善努力をせずとも、2018年7月27日にならない限り、行為者を改善命令違反で告発することができません。

最低限、着手期限を設けるのが、普通の行政のやり方です。

いみじくも、環境省が平成25年3月29日付で発出している「行政処分の指針」にも、

3 内容
(1) 改善命令は、保管基準に適合しない保管又は処理基準に適合しない産業廃棄物の収集、運搬若しくは処分が行われた場合に、再び違法な保管、収集、運搬又は処分が行われないようにするため、基準に適合するように保管、収集、運搬又は処分の方法の変更その他の措置を講ずるように命ずるものであること。
(2) また、改善命令の具体的内容として処理基準に適合しない産業廃棄物の処分が行われた場合には、その状況に応じ当該産業廃棄物の処分をやり直す措置も含み得るものであるが、生活環境保全上の支障が発生し、又はそのおそれがあるときは措置命令によるべきものであること。
(3) 命令の「期限」は、具体的に日をもって指定すること。なお、期限までに処理の方法の変更その他必要な措置を講ずるため、明らかにこれに着手しなければならない日を着手の期限として定めることも差し支えなく、この場合において、着手期限日までに何らの行為を行わない場合は、改善命令違反として差し支えないこと。また、命令違反に対しては捜査機関とも協議の上、直ちに告発を行う等厳正に対処すべきであり、命令が履行されないにもかかわらず、告発を行わないばかりか、催告等もせずに漫然と放置するようなことは決して許されるものでないこと。

と、地方自治体向けに説明されているところです。

滋賀県は、「不法投棄場所周辺の水質に異常がなかったから、生活環境保全上の支障が無い」と判断したのかもしれませんが、

「行政処分の指針」の「措置命令」の項には、

「生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがある」とは、(略)最終処分場以外の場所に埋め立てられた場合なども当然に対象となること。

と説明されています。

滋賀県の発表内容を見る限りでは、「行政処分の指針」を完全に無視した行政処分としか思えません。

もっとも、「行政処分の指針」は、環境省が地方自治法の規定に基づき、地方自治体に対して行う「技術的助言」でしかありませんので、拘束力が無いのも事実ですが(苦笑)。

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コメント

  1. 匿名 より:

    同社、7/30に許可取り消されました(改善命令のわずか3日後です)。
    改善命令が出ている期間に、同社が廃業した場合、排出事業者に対する措置命令って出るんでしょうか?

  2. 尾上雅典 より:

    情報提供いただき、ありがとうございました。

    やはり許可取消が行われたのですね。

    手続的には、排出事業者よりも、行為者に措置命令を出すのが先であるべきですので、肝心の行為者に改善命令を出してしまっている以上、排出事業者にいきなり措置命令を発出することは考えにくい状況となっています。

  3. なんちゃん より:

    廃棄物の不法な埋立てのみを理由として措置命令を発出するのは、法文上困難であると考えます。
    生活環境保全上の支障が具体的に発生し得る状況に至ることが、措置命令発出の最低条件としか、法文上は読めないと思われます。

  4. 尾上雅典 より:

    コメントいただき、ありがとうございます。

    不法投棄には自動的に措置命令が発令されるという趣旨ではなく、措置命令の対象に「なり得る」というのが本旨となります。

    なお、ご存知かと思いますが、
    この事件については、後日滋賀県から措置命令が発出され、刑事告発も行われたところです。


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