軽すぎる行政処分の弊害

「行政処分」というものは、「重ければ重いほど良い」というものではありません。

同じ法律違反をした場合に、行政庁がある業者には重く、別の業者にはより軽い行政処分を科すような事態は、行政の公平性と中立性確保の観点からは許容できるものではありません。

逆に、「軽いほど良い」ものでも決してありません。

その理由は、「行政処分」とは、法律に則った操業を事業者に行わせるために、行政庁が許可業者に科す実質的なペナルティだからです。

「野外焼却」や「不法投棄」等の重大な廃棄物処理法違反に対し科される行政処分が「事業の全部停止10日間」だとしたら、「10日間だけ仕事ができなくなる程度なら、見つかるまでは不法投棄で儲けた方が得!」と考える不届き者が必ず現れることでしょう。

不相当に軽い行政処分は、行政の公平性と中立性を逸脱するもので、法治国家の観点からは著しく不適切と言わざるを得ません。

残念ながら、そのような不適切な行政処分実例が出現してしまいました。

2025年2月14日付 高知県発表 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律に係る行政処分について

 廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく産業廃棄物収集運搬業の業務停止処分を行ったので、情報提供をします。

内容

1 事業者(被処分者)の氏名又は名称(住所)
 (転載略)

2 許可の番号
 (転載略) (産業廃棄物収集運搬業)

3 処分の期間
  廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の3第1号による産業廃棄物収集運搬業の事業の全部停止10日間
  令和7年2月15日(土)から令和7年2月24日(月)まで

4 処分の理由
 (被処分者)は、高知市(略)に本店を置き、同場所を事業場として不要品回収業等を営むものであるが、令和6年5月1日から同年10月28日までの間、次の違反行為を行ったため。
 高知市長等から一般廃棄物収集運搬業許可を受けず、不用品回収の名目で高知県内の一般住宅等から、反復継続して「廃プラスチック」、「木くず」、「繊維くず」等の一般廃棄物を前記事業場まで収集運搬して、作業代と称した運搬費を受領した。(一般廃棄物収集運搬業の無許可営業(法第7条第1項違反)に該当)

5 根拠条文
   廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の3第1号

産業廃棄物収集運搬業の許可業者が、高知市から一般廃棄物収集運搬業の許可を受けていないのに、高知市内で一般廃棄物収集運搬業の無許可営業をしていたことが発覚したため、高知県から「産業廃棄物収集運搬業の事業の全部停止10日間」という行政処分を受けたことになります。

一般廃棄物収集運搬業の無許可営業は、廃棄物処理法第25条の「5年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金、またはこの併科」という、廃棄物処理法で最も重い刑事罰の対象となる法律違反です。

「無許可営業」以外の廃棄物処理法第25条の適用対象としては、「不法投棄」や「野外焼却」等があり、すべて廃棄物処理法で定められた「最もやってはいけない犯罪」となります。

環境省は、平成23年3月15日付 環廃産発第110310002号「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の3等に係る法定受託事務に関する処理基準について」で、

「無許可営業」は行政処分メニューのトップに掲載し、「許可取消相当」という判断を大昔から示しています。

※ちなみに、上記の通知は、本来ならば2017年改正の際に引用する条文番号(現行法の第27条の2関連)を修正する必要がありましたが、なぜか未修正のまま、現在も平成23年時のままで「行政処分の指針(令和3年度版)」で引用されています。

もっとも、「行政処分の指針」その他の環境省通知は、「法令」ではありませんので、行政庁の判断を直接的に拘束するものではありません。

そのため、無許可営業へのペナルティが「事業の全部停止10日間」であったとしても、高知県が廃棄物処理法違反をしたことにはなりません。

しかしながら、「事業の全部停止10日間」とは、「日曜日と祝祭日を含めた10日間」ですので、実質的には「1週間と少しの間会社を休みにする」程度のペナルティであり、無許可営業という、業許可制度の根幹を無視した犯罪に科す罰としてふさわしいものではありません。

先述しましたが、「1週間会社を休みにするだけで禊が済む」のであれば、真面目に廃棄物処理法を守って事業を行っている大部分の処理業者が損をしていることになり、「こんなに軽いペナルティなのであれば、見つかるまではウチも違法処理をしないと損!」という、無意味なモラル破壊を引き起こす可能性すらあります。

行政処分というものは、重すぎてもいけず、軽すぎるともっといけないデリケートなものです。

法治国家の一翼を担う地方自治体としては、恣意的に法律運用をするのではなく、「一罰百戒」の意味を込めて、迅速、そして公正無比に行政処分を行うことが基本中の基本です。

関係者の猛省を促したいと思います。

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