労働災害は許可取消の原因となり得るか否か

主に処理業者の方からセミナーでよくいただく質問に

「労働災害を起こしたら許可取消になるのでしょうか?」というものがあります。

これは、個人事業か法人事業なのか、現場監督責任者が誰なのか、によって答えが変わります。

産業廃棄物処理業者が個人事業主だった場合

この場合、事業主が現場監督責任者でもあり、

刑法第211条(業務上過失致死傷等)
 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

で禁錮刑に処せられた場合、産業廃棄物処理業の欠格要件に該当することになりますので、業許可は必ず取消されることになります。

この場合、個人事業を他の自然人に譲渡する手続きが廃棄物処理法にはありませんので、座して許可取消を待つか、自主的に廃業するしかありません。

ただし、自主的に廃業したとしても、個人として禁錮刑に処せられていることには違いがありません。

そのため、刑の執行が終わってから5年が経過するまでは、産業廃棄物処理業を営む、あるいは産業廃棄物処理企業の役員・株主に就任すると、業許可が取消されてしまうので、実質的に産業廃棄物処理業の経営に携わることはできなくなります。

産業廃棄物処理業者が法人だった場合

この場合は少々複雑になります。

まず、法人に懲役刑を科すことはできませんので、法人と現場監督責任者個人への刑罰を切り分けて考えなければなりません。

法人に対する刑罰としては、罰金刑しかないということになりますが、廃棄物処理法違反に基づく罰金刑とは異なり、刑法第211条(業務上過失致死傷等)違反の罰金刑の場合は、産業廃棄物処理業の欠格要件となりません。

次に、現場監督責任者に禁錮刑以上の刑罰が確定した場合です。

零細企業のように、役員が現場監督責任者を兼任していたような場合で、刑罰の確定時点でも役員であり続けた(辞めなかった)時は、役員の中に欠格者が出たことになり、産業廃棄物処理業の許可が取消されることになります。

しかしながら、刑罰が確定する瞬間まで役員に止まり続けるケースというのは、実際にはほとんど無いと思われますので、現実問題としてはやはり許可取消が発生しにくい状況です。

では、現場監督責任者が役員ではなく社員であった場合はどうか?

現場監督責任者が「政令使用人」であった場合は、上述した役員の解説と同様の結論となります。

政令使用人でもなく、ただの社員(工事部長など)でしかない場合は、仮にその人が禁錮刑に処せられたとしても、産業廃棄物処理企業の役員や株主、あるいは実質的に経営を支配する人間ではない以上、欠格要件の対象にはなりません。

結論

このように、労働災害が原因で産業廃棄物処理業の許可取消が行われるケースというのは、実は非常に狭く限定されます。

欠格要件とは別に、「産業廃棄物処理業を的確に行うに足りる知識及び技能が無い」と判断された場合にも、許可取消が行われる可能性はありますが、
確定した刑罰に対する「許可を取消さなければならない」とは異なり、こちらは「許可取消ができる」という条文になっていますし、
労働災害を一度起こしただけで、「知識及び技能が無い」と断定するのは困難なので、現在までの行政運用としては、労働災害とこの理由を関連付けて許可取消をした事例はないはずです。

重要な補足

許可取消が行われることはまれだとしても、労働災害を起こすと、顧客である排出事業者からの信頼は大きく毀損します。

実際、排出事業者の方から、「業許可には影響がないとしても、取引先としては信頼ができないので、契約解除を視野に入れて契約を見直したい」というご相談をいただく機会も増えております。

産業廃棄物処理企業としては、労働災害を起こすと大きな経営危機に直面することに違いはありませんので、設備投資と安全教育に漏れがないかを常に確認しておきたいところです。

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