コンプライアンス教育の徹底という「精神主義」

戦後70年の節目を迎え、70年前の日本と現在の日本の違いについて考えました。

「変わった物」と「変わらなかった物」の両方がありますが、今回は70年を経ても「変わらなかった物」に焦点を当てたいと思います。

戦争末期には、学徒動員や特攻作戦の実行等、破れかぶれの行動が最前線で起こっていましたが、
最前線ではない内地においても、軍需工場での勤労奉仕(≒強制労働)が活発に行われておりました。

その際、現在ならすぐに「ブラック企業」と言われることは間違いない、「児童労働」や「無給の長時間労働」が常態化し、
病気になった人には「大和魂を発露して乗り切れ」と命じるなど、「大和魂の発露ですべてが解決する」という現代の感覚からすると狂気じみた雰囲気が満ち満ちていました。

さて、2015年の現代日本において、「大和魂」への依存が無くなったかを考えると

「大和魂」という時代がかった言葉自体は使用されなくなりましたが、
「大和魂」に象徴される、便利、かつ何かの行動をしたかのように錯覚させる「言いっ放し」の放言行動は相変わらず健在です。

それを改めて気づかせてくれたのが、贈収賄事件で大騒ぎとなっているNEXCO西日本の社長会見です。

2015年7月22日付 産経新聞 「「コンプラ教育不徹底」…社員が収賄で逮捕のNEXCO西日本社長が謝罪

 高速道路株式会社法の収賄容疑で社員2人が相次いで大阪府警に逮捕された西日本高速道路(NEXCO西日本)の石塚由成(よしなり)社長が22日、事件を受けて大阪市北区堂島の同本社で記者会見し、「痛恨の極み。改めて深くおわび申し上げる」と謝罪した。

 石塚社長は、同日付で弁護士や大学教授でつくる第三者委員会を設置し、汚職の原因究明と再発防止策の検討を進めるとした。また、業者選定のチェックが簡素化される250万円以下の随意契約で事件が起きていたことから、随意契約で業者が適切に選ばれているかどうかをチェックする審査委員会を設けたことも明らかにした。

 府警によると、逮捕された社員2人は、いずれも担当業務の発注を指示できる立場で、石塚社長は「社員のコンプライアンス教育の不徹底が問題の一端」との認識を示した。

記事タイトルでは、略す必要もないのに「コンプラ」と表記されていますが、この略語だと、語感から連想される「天ぷら」のように、非常に軽い印象になります(苦笑)。

たしかに、NEXCO西日本において、社員のコンプライアンス教育に不足があったのは事実であろうと思いますが、
教育をしたからといって、汚職をする人間の懐具合が良くなるわけではありませんし、汚職の違法性を再認識することもほとんど無さそうです。

従って、いくら教育に時間を掛けたところで、汚職が起こる土壌や環境を改善しない限り、第二の汚職は形を変えてすぐ発生しそうです。

もちろん、
新聞記事は会見の要旨を要約しただけに過ぎず、時に扇情的な表現になることもままありますので、社長が「再発防止策の決め手は社員教育」と言ったわけでもなさそうです。

記事の中でも、「随意契約で業者が適切に選ばれているかどうかをチェックする審査委員会を設けたことも明らかにした。」と書かれているとおり、
随意契約が適正だったかどうかを専門にチェックする機関を作っているようです。

しかしながら、無許可業者への処理委託という一点に絞れば、「社員のコンプライアンス教育の不徹底が問題の一端」では済みません。

単なる贈収賄事件ではなく、組織的問題」でも書いたとおり、産業廃棄物の処理委託に関しては、排出事業者であるNEXCO西日本の対応自体が0点でしたので、社員教育をする前に、経営層から排出事業者責任を理解し、社員が守るべきルールや手順を示すことから始めなければなりません。

そうしないことには、現場に弾薬や人員を配置せず、「大和魂を発露して、竹槍で爆撃機を撃墜せよ」と実現不可能な命令を下しているのと同じ構造になります。

道具や手順が存在しないところで教育をしたとしても、その教育の効果が発揮されることはありません。

まずは、「許可業者に委託しなければならない理由」「許可業者の探し方」「契約書の作成方法」「マニフェストの運用方法」等を具体的にマニュアル化し、全社で共有する必要があります。

理念教育はマニュアル作成の後にやるべきこととなります(同時進行でも良いですが)。

安全教育にしても同様ですが、従業員の不注意や認識不足のみを原因とみなすのではなく、「不注意や認識不足では作動しない仕組み」をまず作らねばなりません。

※ちなみに、2015年8月8日付 産経新聞 「賄賂自ら要求、金額まで提示 西日本高速課長ら起訴」によると、廃棄物処理法違反に関しては「不起訴」となった模様です。

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