行政の責任回避のために行われた行政指導

官僚の責任 (PHP新書)

東京新聞 産廃業者を行政指導 高崎市 ホルムアルデヒド問題で

 利根川水系から取水する首都圏の浄水場で有害物質「ホルムアルデヒド」が大量に検出された問題で、高崎市は二十八日、原因物質を流出したとされる産業廃棄物処理業の高崎金属工業(同市)に文書による行政指導をしたことを本紙の取材に明らかにした。同工業からは既に指導に対する回答書が提出され、市として問題に一定の区切りが付いた。 

 市によると、指導文書名は「産業廃棄物の適正処理について」。同工業に違法性はなかったが、市は廃棄物処理法上の監督権限などがあり、市幹部が今月初めに来社して文書を責任者に手渡した。

 指導内容は▽原因物質「ヘキサメチレンテトラミン(HMT)」を含む廃液処理を引き受けない▽現在処理している廃液成分の再点検-など。回答書は同工業の責任者が指導の数日後に市役所に持参し▽廃液処理を引き受ける際に成分を確認し、HMTを含む場合は受けない▽再点検の結果-などを報告した。

 この問題は化学製品業のDOWAハイテック(埼玉県本庄市)が同工業に処理を委託した廃液中にHMTが含まれ、汚染が拡大したとされる。ただ、DOWAは同工業に対し、廃液にHMTを含む事実を伝えず、同工業は知らずに廃液を流したという。

 このため、埼玉県はDOWAに対し、六月ごろの段階で文書による行政指導をしたが、高崎市は同工業への指導を慎重に検討。その後、この問題をテーマにした環境省の有識者による検討会を見守っていた。

 市は同工業の社名を終始公表しておらず、今回の指導も違法性が認められないために報道発表していない。

 市幹部は「(環境省の有識者検討会がまとめた中間案でHMTが水質汚濁防止法の指定物質に追加され)今後はHMTが規制対象になると聞いており、問題の防止につながると思う」と語った。

このニュースを見て、個人的には非常に嫌な印象を受けました。

社名を公表していないとはいえ、違法性もなく、過失も無かった処理業者に、なぜ行政指導をする必要があったのでしょうか?

行政指導とは、一定の行政目標の達成を目的として、相手方に任意に協力してもらうための「要請」という性格が強いものです。

行政指導は単なる「要請」ですから、明確な法律的根拠がなくても可能です。

しかしながら、要請だからと言って、無意味な注文を無制限にしても良いわけではありません。

今回の高崎市の行政指導は、
・HMTを含む廃液処理を引き受けない
・現在処理している廃液成分の再点検
の2点だったようですが、

元々、事件発覚当初から高崎金属工業は「HMT含有とわかっていれば処理を引き受けなかった」と表明していましたので、わざわざ行政指導で念押しする意味はありません。

また、「現在処理している廃液成分の再点検」と簡単に指導していますが、廃液の成分分析は無料ではできませんし、なぜ今成分分析をする必要があるのかが理解できません。

やる必要や言う必要のないことを言うだけの行政指導では、単なる嫌がらせなのではないでしょうか。

このような無意味な行政指導を行った背景としては、万が一将来同種の事故が発生した場合に、「DOWAハイテック社が流出させた際に、なぜ高崎市は何も行動をしなかったのか!?」という批判がなされることを恐れてのものだと思われます。

その気持ちはわからなくもないですが、そんな情けない理由で、公権力をいたずらに行使するというのはいかがなものでしょうか。

行政の存在意義は、「責任回避をして批判を免れる」ことではなく、「アクシデントが起こった際に迅速に行動して住民の安全を守る」ことに他なりません。

ただ、「迅速に行動する」ことが、自治体にとって困難になっているのも事実ですが、少なくとも市レベルでは、首長や行政幹部の意向次第でかなり迅速な行動ができるはずです。

高崎市には、責任回避に力を注ぐのではなく、前向きな目的に公権力を使っていただくことを望みます。

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