住民の不安にはどこまで応えるべきか

最近では、パチンコ店の新規設置の際、「ご質問は●●法律事務所の弁護士△△まで」と大書した看板を掲げるところが増えています。

一昔前までは、パチンコ店の新設で地域住民がのぼり旗を立てて反対するケースがよくありました。

しかし、法律上の立地規制をクリアした店舗であるならば、そこで営業する権利も当然法律で保障されるべきです。

そう考えると、弁護士にリスクコミュニケーションを一任するのも合理的な対策と言えそうです。

産業廃棄物処理施設の設置の際にも、このような線引きをすることが必要な時代なのではないかと思っています。
もちろん、法的な規制をクリアした安全な施設であることが大前提ですが。

前置きが長くなりましたが、2013年6月19日付で既報の「住民の不安とのリスクコミュニケーション」の続報が入りました。

2013年08月15日(木) 愛媛新聞 隣接地域住民が許可撤回求め県提訴 西予の産廃施設

 愛媛県西予市宇和町郷内地区で民間業者が建設を進める産業廃棄物焼却施設をめぐり、隣接の同市三瓶地域住民が建設に反対している問題で、建設予定地の西3キロ以内に居住する20人が14日、県に設置許可の取り消しを求める行政訴訟を松山地裁に起こした。
 訴状によると、建設地は三瓶地域の約8割に当たる6100人に飲料水などを供給する谷道川上流の斜面に位置しているが、廃棄物処理会社「南予エコ」(同市)は県が要綱で義務付ける住民の同意を影響が少ない地区だけから取り付け、県や市も同地域住民の意見を聞く機会を設けなかったと主張。
 燃焼室などが外気と遮断されていない施設構造のほか、燃焼ガスの温度や一酸化炭素濃度の記録装置、排水処理設備を備えていない点などは廃棄物処理法の施行規則に違反し、環境影響評価の調査手法や内容もずさんで「周辺住民の生活環境保全に適正な配慮をしていない」としている。
 県循環型社会推進課は「県の指導要綱に基づき立地地域の同意ががあり、許可した。法令上適切な対応で問題はない」としている。

住民側が愛媛県を提訴した理由は主に2つあるようです。

第1 廃棄物処理会社は、県が要綱で義務付ける住民の同意を影響が少ない地区だけから取り付け、(愛媛)県や(西予)市も同地域住民の意見を聞く機会を設けなかった。
第2 愛媛県は構造基準を満たしていない焼却炉に設置許可を出した。

同意書の位置づけ

まず、第1の論点
愛媛県の行政指導要綱で定める同意書の取得範囲を承知しておりませんが、通常は事業地が位置する近辺の土地所有者や自治会などから同意書を取得させるのが一般的です。
数百メートル以上離れた場所からも同意書を取得することを義務付けると、事業者側の負担が著しく増大し、場合によっては利害関係を持たない遠方の人の反対によって、許可取得が不可能になることもあります。

そうした理由から考えると、今回のケースも下流域の住民の同意書取得を求めなかったことが非合理とは言えません。

また、そもそも同意書は廃棄物処理法で定められている書類ではないため、同意書を取得したのは事業者側が任意で愛媛県の行政指導に従ったにすぎず、これ以上事業者に同意書取得を強制するのは酷になります。

そして、「意見を聞く機会を設けなかった」という指摘については、「住民の不安とのリスクコミュニケーション」にも書いたとおり、「告示縦覧」の機会が廃棄物処理法によって義務付けられていますので、行政や事業者が関係住民にまったくの不意打ちで手続きを進めたわけではありません。

もちろん、告示などを読んでいる人はほとんどいませんので、大部分の人が焼却炉設置計画を知らなかったとしても無理はありませんが、個別の住民に周知して回ることができない以上、一定の線引きは不可欠となります。

ただし、繰り返しになりますが、廃棄物処理法で定める構造基準を満たす施設で、操業後も生活環境に支障を生じさせない施設であることが大前提で、手続きさえ踏めばどんな施設でも設置可能と言いたいわけではありません。

焼却炉の構造基準

次に、第2の論点ですが、愛媛県が構造基準を満たしていない焼却炉に設置許可を出したかどうか。

一般的には、このような不適切な法律運用をするメリットが行政には無いため、現実的にはほぼ有り得ない話です。

愛媛新聞の続報を見ると、愛媛県の見解でも、「構造基準を満たした施設である以上設置許可を出すのが当然」と示されています。

2013年08月16日(金) 愛媛新聞 県「止める手だてない」 西予・宇和産廃建設

 愛媛県西予市宇和町郷内地域で民間業者が建設を進める産業廃棄物焼却施設に、隣接する同市三瓶地域住民が建設に反対している問題で、県はこのほど、三瓶地域の全住民に対し「事業者からの申請は法令に基づく施設の構造基準や周辺地域の生活環境の保全など、許可要件を満たしている。手続き上、県は許可しなければならない」との回答文書を郵送配布した。
 県循環型社会推進課によると、5月中旬に地域の全19区長らで構成する「三瓶の水を守る会」(松木泰会長)が、設置許可取り消しを求めて市民5903人分の署名を中村時広知事宛てに提出したことへの返答。13日に地域の全家庭約3500戸に宛てて投函(とうかん)した。
 回答では「県は独自に指導要綱を制定し、事業者に対し事前協議や関係地域住民の同意など法律以上の手続きを義務付け、慎重な審査を行っているが、法的拘束力がない」とし「今回の案件については、建設を止める手だてはない」との見解をあらためて示した。

結論

愛媛県の県民性としては、「穏やか」で「争いを好まない」というのが自他ともに認める特質ではないかと思います。

今回のように愛媛県を訴えるという非常手段をいきなり使うのではなく、まずは行政を交えて事業者とざっくばらんな話し合いをし、不安や疑問をぶつけてみることが大切なのではないでしょうか?

少なくとも、法的な基準においては、愛媛県と事業者には瑕疵が無さそうなので、住民側には分が悪い裁判となります。

地域の安心のためには、名より実を取り、住民側が望む(合理的な)安全対策を、交渉によって事業者に採用させる方が合理的ではないでしょうか。

このエントリーを含むはてなブックマーク

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントをどうぞ

このページの先頭へ