住民の不安とのリスクコミュニケーション

6月18日付 愛媛新聞 産廃施設工事を再開 西予

 愛媛県西予市の廃棄物処理業者「南予エコ」は17日、同市宇和町郷内地域で進めている産業廃棄物焼却施設の建設工事を再開した。下流に位置する同市三瓶町の住民らが工事の中止を求めたことから、2カ月近く中断していた。
 県循環型社会推進課によると、建設許可を出した県は4月23日、工事を中断し話し合いの場を設定するよう求める住民の意見を同社に伝え、同社は即日工事を止めていた。
 同社や県、市などは6月9日、三瓶町朝立の三瓶文化会館で住民説明会を実施。事業概要や許可手続きに問題がないことなどを説明したが、参加した約千人の住民らは水汚染の危惧や事前説明がなかったことなどから反対の声を上げた。
 焼却施設は3月に着工。プラスチックや木くずなど日量最大約20トンの焼却能力があるが、排水はない。

最初にお断りしておきますが、今回の記事は、住民側・処理業者側のいずれかを擁護する記事ではなく、リスクコミュニケーションの失敗に終わっている現実とその原因について考察するものです。

焼却炉として愛媛県から産業廃棄物処理施設設置許可を受けたにもかかわらず、工事着工後に事業地から少し離れた地域の住民から強硬に反対されたために、事業者が工事を自発的に止めた。

そして、6月9日に愛媛県と西予市隣席の下事業者が1,000人を超える地域住民に説明会を開催したものの、協議は不調に終わったために事業者が諦めて工事を再開したという経緯のようです。

同じ西予市内であっても、宇和町は山側、三瓶町は海側に位置しています。
三瓶町には漁港もあるようなので、1,000人を超す出席者があったということは、漁業関係者も相当数出席したのだろうと思います。

事業者にしてみれば、「工事着工後になってからなぜ反対するのか?」という思いを抱くのは当然ですし、
住民(特に三瓶町の)にしてみれば、「焼却炉という生活環境に悪影響を及ぼす可能性がある施設を事前説明なしに設置されそうなので驚いた」のであろうと思います。

ただし、焼却炉を設置する場合には、事前に告示縦覧する手続きが定められていますので、事業者が隠れて手続きを進めることは不可能です。
手続きとしては、住民が事前に焼却炉の設置計画を知る機会が保障されています。

しかしながら、告示縦覧の内容は、通常自治体の公報やHPに細々と掲載されるだけですので、多くの住民にとっては知らされていないのと同じです。

では、事業者から個別の住民全員に周知させられるかというと、通知コストを考えただけでそれが現実的ではないことがわかります。

このような告示縦覧という名ばかりの情報公開ではなく、産業廃棄物処理事業によって影響が出てくると思われる地域の住民に対し、説明会をさせる自治体も多数あります。

愛媛県の場合は、関係者への説明会ではなく、事業地周辺土地所有者の同意書取得だけで許可を受けることが可能なようです。

同意書はそもそも廃棄物処理法で決められた手続きではなく、その自治体が行政指導として求めている文書にしかすぎませんが、
影響が広範囲に及ぶ事業の場合、往々にしてこのような地域紛争の火種になってしまいます。

同意書の場合、
隣接地の土地所有者は事業計画の説明を受けたとしても、
隣接地の土地所有者ではない大部分の関係者には説明が行われないからです。

記事を読む限りでは、
住民側の不安である「水汚染の危惧や事前説明がなかった」という投げかけに対し、
事業者と愛媛県などは「事業概要や許可手続きに問題がないことなどを説明した」だけのようですので、
まったく議論がかみ合っていません。

事業者と行政側の説明は、住民の不安に対する答えになっていないからです。

排水が外部に出ない焼却炉のようですので、有害物質の飛散防止対策などをわかりやすく解説すれば、全員とは言わずとも、かなりの人の安心感を得られたのではないでしょうか?

法的にはこのまま手続きが進められると思いますので、許可取得後に事業者がクリーンな操業を継続することで、住民との不幸なボタンのかけ違いを解消していただくことを期待しています。

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