1都4県の水道事業者がDOWAハイテック社を提訴

あまり大きく報道されていなかったので知るのが遅くなりましたが、ヘキサメチレンテトラミン(以下、HMT)流出事件に関して、1都4県の水道事業者がDOWAハイテック社に損害賠償請求訴訟を提訴しました。

2013年8月30日18時11分 読売新聞 利根川に化学物質、4都県が排出元に賠償請求へ

 利根川水系の浄水場で昨年5月、国の基準値を上回る濃度の化学物質ホルムアルデヒドが検出された問題で、埼玉、東京、茨城、群馬の流域4都県が30日、原因となる物質を排出した化学メーカー「DOWAハイテック」(埼玉県本庄市)に、汚染水処理費など計約6400万円の損害賠償を求めて、さいたま地裁に提訴する。

 千葉県は、約35万世帯が一時断水するなど被害が大きかったため、4都県とは別に、約2億3000万円の賠償を求めて千葉地裁に提訴する方針だ。

 5都県は30日午後、提訴を発表し、請求内容などを説明する。埼玉県によると、DOWA社は2003年にも高濃度のホルムアルデヒドを発生させ、県が指導した経緯があり、今回は廃液に含まれる物質の詳細を処理委託業者に伝えていなかった。このため、5都県が民法上の不法行為にあたるとして計約2億9000万円の賠償を求めたが、DOWA社は拒否していた。

 DOWA社は「訴状を見ていないので分からない。処理委託のどこに不法行為があるのかが明らかになっていない中で、賠償に応じることは難しい」(経営企画室)と話している。

7月下旬に東京のある弁護士の方にこの事件の顛末を質問したことがあるのですが、その弁護士の方は、この事件のことを全然ご存じありませんでした。

事件被害の大きさの割には、社会的関心が低いと言わざるを得ないようです。

市場マーケットもすごぶる冷静に親会社のDOWAホールディングス社の価値を認めており、昨年5月のHMT流出後も、同社の株価は順調に上がっていました。
DOWAホールディングス株式会社の株価推移(2年間)

当ブログの2013年1月22日付記事 DOWA社が水質事故の損害賠償を拒否 でも既報のとおり、訴訟の提訴の前に、水道事業者とDOWAハイテック社の話し合いの機会が持たれていましたが、DOWA社は損害賠償を全面拒否。

その結果、標題のように、業を煮やした自治体と水道事業者から、改めて損害賠償請求訴訟が提起されることになりました。

訴えを起こされたことへのDOWAホールディングス社からのアナウンスは、下記のとおりです。
当社子会社「DOWAハイテック(株)」に対する損害賠償訴訟の提起について

 本日、東京都水道局他10 団体(以下、水道事業者等)が、当社子会社であるDOWA ハイテック株式会社(以下、DOWA ハイテック)に対して、損害賠償訴訟を提起したことが東京都をはじめとする
関係自治体より発表されました。
 当社はこれまで、2012 年5 月に発生した利根川水系の浄水場でホルムアルデヒドが検出された事案の詳しい状況について水道事業者等へ説明を重ね、ご理解が得られるよう努めてまいりました。しかしながら本日損害賠償訴訟提起の発表を受けるに至り、誠に残念に思っております。
 本事案については埼玉県環境部の調査結果によれば、群馬県の廃棄物処理業者である高崎金属工業㈱が、処理を行った廃液に含まれていたヘキサメチレンテトラミンの処理を十分に行わないまま、利根川水系に放流されたものであると強く推定されています。しかしながら、今回の事案に対して水道事業者等は、埼玉県環境部において原因者と推定しているものと思われる高崎金属工業㈱ではなく、委託者であるDOWA ハイテックに対して当該事案により生じた損害を賠償するよう求めております。
 当社の見解は2012 年12 月26 日に発表したとおりであり、今後は訴状を受け取り次第、内容を十分確認し、対応を検討してまいります。
 なお現在のところ、2014 年3 月期の連結業績予想に関して、修正等の予定はございません。

声明文にもあるとおり、今回の声明も「2012年12月26日に発表した」内容とほぼ同じです。

相変わらず、委託先処理業者に全面的に責任を押し付ける格好となっています(苦笑)。

当初から委託基準違反として、DOWAハイテック社の過失を追及しておけば、DOWA社にとっても将来に向けた改善努力を取りやすかったはずだと思われます。

ただし、DOWA社としても、株主代表訴訟を起こされるリスクを考えると、水道事業者などからの損害賠償請求に対し、ホイホイと賠償金を払うことができないことだけは理解できます。

形式的には、埼玉県が「DOWAハイテック社の委託に違法性なし」として終結させましたが、
その裏では相当頻繁に環境省と方針の摺り合わせをしたはずです。

個人的な推測にすぎませんが、埼玉県としては、DOWA社に委託基準違反の過失責任があったと表明したかったのではないかと考えています。

その根拠は、この事件の直後に設置された「利根川水系における取水障害に関する今後の措置に係る検討会」において、埼玉県の方がかなり悔しそうに「委託基準をもっと明確化しないと、指導がやりにくい」という趣旨の意見を述べられていたからです。

当初は「HMTの含有有無について情報提供せずとも委託基準違反ではない」と言っていた環境省が、この事件終息から約3カ月経過後に、
平成24年9月11日環廃産発第120911001号 「ヘキサメチレンテトラミンを含有する産業廃棄物の処理委託等に係る留意事項について」 という手のひらを返すような文書を発出したことを考えると、

事態をややこしくさせた一番の元凶は「環境省」だと言わざるを得ません。

社会的な注目をほとんど浴びていない事件ですが、日本の行政規制の質とやり方の問題点を白日の下にさらすことになりました。

それだけは良かったと考えるしかないのかもしれませんね・・・

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