方々に波及しそうな逮捕事件

下取と称して同じような回収、あるいは処理フローを採用している企業は非常に多いので、ただの無許可営業事件にとどまらず、影響が方々に広がりそうです。

2013年11月5日23:46 産経ニュース 有名エステ店の使用済み脱毛用針を無許可処分 容疑で医療器具販売会社の営業所長逮捕 大阪府警

 有名エステ店で使用した脱毛用針の処分を無許可で請け負ったとして、大阪府警生活環境課は5日、廃棄物処理法違反容疑で、千葉市緑区越智町の医療器具製造販売会社「医研工業」千葉営業所長(69)を逮捕した。府警によると、黙秘している。

 逮捕容疑は2月~5月、無許可で東京都のエステ店「ダンディハウス池袋店」など3店舗に針回収用のプラスチック容器計5個を計4100円で販売。容器に入った使用済み針約1万8600本を返送させて処分を請け負ったとしている。

 府警によると、河崎容疑者は平成8年7月~今年9月、全国のエステ店から使用済み針約74万本の処分を受託していた。エステなどで使われた針は本来、許可業者が回収し処分するが、容疑者は針入り容器を宅配便で送らせ、品名欄には「裁縫道具」と記載するようエステ店に指示していた。回収した針は1キロ280円で正規の業者に処分を依頼していたという。

 ダンディハウスを運営する「シェイプアップハウス」(東京)は取材に対し「回収方法は本社が指示するはずだが、法律的知識がない店舗が処分方法を誤っていたとも聞いている。事実関係が確認できれば全店舗への教育を徹底し、再発防止に努める」と話した。

事件の本質は何か

この事件の本質は、他者が発生させた産業廃棄物の処理を、産業廃棄物処理業の許可を受けずに反復継続して引き受けたという無許可営業事件です。

処理を引き受けた廃棄物が、使用済み脱毛針。

専用の回収箱を事前に買わせ(5個で4100円なので、1個当たり820円)、着払いか元払いかはわかりませんが、針をまとめて宅配便で送らせるという仕組み。

ただし、回収後の針の処理を1kgあたり280円という、おそらくは感染性廃棄物として高額なコストで処理委託をしていますので、儲けはほとんど無かったものと思われます。

それゆえ、行為者の心情的には、無許可営業というよりは、自社製品の販促のための下取回収という認識だったのではないかと思います。

もちろん、回収箱を買わせ、運送料も排出事業者に負担させていたのであれば、無償回収が前提となる下取回収の範疇を超えています。

以下、論点を個別に整理します。

エステ店の使用済み針は感染性廃棄物か

エステサロンを利用したことが無いため、脱毛用針というものがどんな形状をしているのかがわかりませんが、針である以上、人体に直接突き刺す(!)用途があるという前提で考えます。

医療機関などで使用した注射針などが感染性産業廃棄物に該当するのは当然ですが、
エステサロンは医療行為を行う場所ではありませんので、人体に直接突き刺した針であっても、非感染性廃棄物にしかなりません。


「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル(平成24年5月)」より転載

このように、本来であれば普通の「金属くず」として処理可能な廃棄物ですが、形状が明らかに針状で、感染性産業廃棄物となる注射針と見分けがつかない場合、特別管理産業廃棄物処分業者以外では受入れが拒否される傾向にあるのも事実です。

注射針と酷似した針を安い単価で金属くずで処分するメリットと、行政から「感染性廃棄物を無許可で処分しただろう!」と痛くもない腹を探られるデメリットを比較すると、圧倒的にデメリットの方が大きくなってしまうからです。

なぜ「裁縫道具」と書かせたか

「脱毛用針」と正直に書いてしまうと、廃棄物であることが明らかになってしまうため、裁縫道具と偽って書かせたのでしょうか?

エステサロンが裁縫用針を大量に送り付けること自体が不自然ではありますが(笑)。

宅配業者の違法性は

使用済みの脱毛用針と認識し、金属くずの運搬許可を所持せずに運搬をしていたのであれば、宅配業者も無許可営業をしていたことになります。

ただし、報道にあるとおり、「裁縫道具」というファンシーな申告しかされていなかったのであれば、箱を開封して中身を見るわけにもいきませんので、宅配業者に無許可運搬をする故意や過失はなかったと考えることが可能です。

委託者のエステサロンの責任は

無許可業者に処理委託をしている以上、法的には委託者の委託基準違反の責任も厳しく問われるべきです。

「回収方法は本社が指示するはずだが、法律的知識がない店舗が処分方法を誤っていたとも聞いている。事実関係が確認できれば全店舗への教育を徹底し、再発防止に努める」

直営ではなくフランチャイズ制を取っているのであれば、ブランドイメージの毀損はさておき、廃棄物の処理責任は各店舗に帰属することになります。

しかし、産経ニュースのコメント内容を忠実に解釈すると、ダンディハウスはフランチャイズ制ではなく直営制のようですので、「法律的知識がない店舗」が存在していたこと自体が大問題です。

別の報道によると、1996年頃から、全国のエステサロンが使用済み針の回収委託をしていたようですので、ここまで長期間「法律的知識がない」状態を放置していたことは、重大な過失に当たると思われます。

仮に、処理委託をしていた店舗がフランチャイジーであったとしても、法的な廃棄物処理責任を云々する以前に、このような報道をされてしまうとサービス業にとっては大打撃となりますので、フランチャイザーはやはりしっかりと廃棄物処理ルールを明確にし、それを加盟店に遵守させることが、結局はフランチャイザー自身の利益につながります。

最も合理的な処理方法は

本来なら特別管理産業廃棄物に該当しないただの「金属くず」であるため、使用済み針とわかったうえで処理してくれる処理業者や再生事業者と契約をし、金属くずとして処理を進めるのが最も合理的です。

エステサロン側が胸襟を開いて、なおかつ説明の労を厭うことなく、処理事業者と話をすれば、きっと信頼できる取引先が見つかるものと思います。

問題は、その調整に要する時間とコストですが、ネガティブな報道で有名になるよりは、短期間我慢して汗をかきながら調整に励む方が合理的と思いますが、いかがでしょうか?

時と場合によっては、「悪名は無名に勝る」ことがあるのも事実ですが(苦笑)。

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コメント

  1. 堀口昌澄 より:

    皆さんが「限りなくクロにちかいグレーでしょ」と思っていたM安全ですら、数年前に広域認定を取ってますから。あからさまに意図的に脱法している感じなので、受入れがたかったのでしょうか。

    しかしまぁ、廃棄物処理法の現行の規制内容はともかく、この回収を法律で規制すべきなのか、許容すべきなのか。。。個人的には、許容してもよいと思うのですが。

  2. 尾上雅典 より:

    堀口さん コメントいただき、ありがとうございました。

    便利な回収フローであったのは事実なので、他の企業の回収システムにも大きな影響が出そうですね。

  3. ヨッシー より:

    今回の件は産業廃棄物処理法違反での逮捕との事で、大変興味があったのですが、気になった部分が報道されていなかったが残念です。気になっている部分とは普通産廃となっているのか又は、特別管理産業廃棄物の分類になっているか興味があります。もし、特別管理産業廃棄物に分類されればエステサロンや彫師(TATTOOアーティスト)は特別管理産業廃棄物管理責任者の講習を受けなければならないのかと疑問に思っています。

  4. 尾上雅典 より:

    ヨッシー様 コメントいただき、ありがとうございました。

    エステサロンは医療行為を行う場所ではなく、また感染症にかかった人が行く場所でもないため、まず確実に使用済み脱毛針は特別管理産業廃棄物にはなりませんね。


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