処分済みだったはずの食品廃棄物がスーパーで売られるというリスク

「本当に現代日本で起こった事件なのか!?」と、目と耳を疑う事件が起こりました。

各紙とNHKの報道を読み比べましたが、朝日新聞が一番詳細に報じていたので、朝日の記事を紹介します。

2016年1月14日付 朝日新聞 「廃棄カツ、スーパーで販売 ココイチ製、産廃業者横流し

 カレーチェーン「CoCo(ココ)壱番屋」を展開する壱番屋は13日、異物混入の疑いがあるトッピング用の冷凍ビーフカツが廃棄を頼んだ産業廃棄物処理業者によって横流しされ、約5千枚が愛知県のスーパー2店で販売された、と発表した。

 混じった可能性があるプラスチック片を口に入れてもただちに健康被害が出ることはないが、廃棄を頼んだ際に冷凍状態から一度とけており、傷んでいる可能性があるという。

 混入の疑いがあるカツは約4万枚。5枚1組で透明な業務用包装をしてあり、「ビーフカツ」「賞味期限16・01・30」と書かれている。

 届け出を受けた愛知県によると愛知の2店で約5千枚が販売済み。約300枚は店に残っていた。約7千枚が堆肥(たいひ)になり、約2万8千枚の行方は調査中。廃棄物処理法などに触れる疑いがあるという。壱番屋は県警一宮署にも通報した。

 壱番屋によると、問題のカツは昨年9月2日に同県一宮市の自社工場で作った。パン粉を混ぜる機械のプラスチック製の棒が8ミリほど欠けているのが見つかり、壱番屋はこの日ここで作ったカツ4万609枚の廃棄を決定。同県稲沢市の産廃処理業者「ダイコー」に10月19日に渡した。

 しかし、壱番屋や同県によると、今年1月11日、同県津島市のスーパー「Aマートアブヤス」神守店の店頭で、壱番屋のパート従業員が冷凍カツを発見。壱番屋のカツ、との広告が掲げられていた。名古屋市中川区にあるAマートの春田店の店頭でも見つかった。

 壱番屋がダイコーにただしたところ、Aマートではない複数の業者に売ったと認めた。「親しい人から、ほしいと頼まれた」との説明を受けたという。

 ダイコーの販売先の一つは、愛知県から連絡を受けた岐阜県によると、同県羽島市の「みのりフーズ」。岐阜県の調べに、同社の食品衛生責任者は「私の独断でダイコーと取引した。箱を詰め替えて愛知県の個人1人と企業2社にすべて売った」と話した。壱番屋と書かれた段ボール約800箱が、みのりフーズで見つかったという。Aマートがみのりフーズから買ったかは明らかにされていない。

     ◇

 壱番屋によると、冷凍ビーフカツは、チェーン店でカレーのトッピングに使う業務用で、外部への販売は想定していない。同社の経営企画室は朝日新聞の取材に対し「ダイコーに引き渡し、適切に廃棄されたとの報告を受けていた。ダイコーへの今後の対応は検討中だ」としている。その上で「消費者の方にご心配をおかけした。追加の情報が入れば公表したい」としている。

食品事業者にとっては、廃棄処分したはずの食品が市場に横流しされるという事態は、それを不法投棄されるよりも恐ろしいリスクになります。

某国やあの国ならさておき、日本の小売店で廃棄品が売られるとは想像もしませんでしたが、こんなに容易に廃棄品が流通してしまう事態を見ると、どうやらそれも幻想に過ぎなかったようです。

さて、こうしたケースで問われる廃棄物処理法違反を整理します。

排出事業者

不法投棄をされたわけではないため、排出事業者が措置命令の対象になることはなさそうです。

あとは壱番屋側に委託基準違反があったかどうかだけとなりますが、
朝日新聞の記事を読むと、処分終了報告のマニフェストが返送されてきていることがうかがえます。
※別の中日新聞の記事では、全量処分済みと記載されたマニフェストが返送されていたようです。

記事では委託契約書の有無までは言及されていませんが、それも当然あったものと思います。

このように、今回のケースでは壱番屋は横流しされた被害者になりますし、廃棄物処理法違反が問われる余地はなさそうと考えられます。

産業廃棄物処理業者

あくまでも廃棄物処理法違反に限定した考察です。

真っ先に思い当たるのは、「マニフェストの虚偽記載」です。

実際には約3万枚のビーフカツを横流ししていたにもかかわらず、壱番屋から委託された約4万枚のビーフカツの全量を「処分終了」として排出事業者に報告していたのであれば、処分終了年月日を虚偽記載したことになります。

刑事罰としては、廃棄物処理法第29条の「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」の対象です。

環境省が「行政処分の指針」で示しているマニフェストの虚偽記載に対する行政処分の目安は、「事業の全部停止30日間」です。

壱番屋との契約に反し、全量を処分せず、一部のビーフカツを横流しした行為については、
壱番屋との契約違反にはなりますが、廃棄物処理法違反になるかどうかは微妙です。

廃棄物処理法違反としては「再委託」が考えられますが、ビーフカツの横流し(売却)が、排出事業者に承諾を得ずに他者に産業廃棄物を処理させるという再委託になるかという問題です。

筆者の個人的見解としては、廃棄物を処理させるという意図がなかったのであれば、今回の横流し行為自体は再委託に該当しないと考えていますが、愛知県の今後の調査の結果、別の証拠が出てくる可能性もあります。

念のため補足しておきますが、上記の「虚偽記載」と「再委託」はそれぞれを個別に論じていますので、横流しは廃棄物処理法違反にならないのかと思われるかもしれません。
しかし、横流しをした以上、マニフェストに虚偽記載をせざるを得なくなりますので、廃棄物処理法違反は不可避となります。

では、マニフェストに虚偽記載をせずに、正直に「3万枚を売却した」と書くとどうか?

その場合、廃棄物処理法違反をしていることにはなりませんが、委託者から確実に契約解除され、損害賠償請求を起こされるかもしれませんので、やはり正直に書く人はいないと思います。

事例としては非常に興味深いものだったので、
次回は製品廃棄物を横流しされないための注意点を考察します。

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コメント

  1. さくぱぱ より:

    この場合、産廃の種類は何にしたのでしょうか?
    動植物性残さ? 違うなぁ。
    有機性の汚泥? 泥状かなぁ?

    色々悩みます。

  2. 尾上雅典 より:

    さくぱぱ様 コメントいただき、ありがとうございました。

    件の業者は、動植物性残さの許可を持っているので、動植物性残さとして処理していたものと思われます。

  3. さくぱぱ より:

    ご回答ありがとうござます。

    動植物性残さの定義からいうと、微妙にちがうように感じます。
    この場合、事業系一般廃棄物という考えも出てくるのでしょうか?

  4. cololrless より:

    はじめまして。
    廃棄物行政に携わるものとして、いつも興味深く拝見させて頂いております。
    さて、今般の事案は16条違反には該当しませんでしょうか。
    逐条解説によると、16条は行為等について態様等を総合的に勘案し、社会通念上容認されない処分方法について適用される条文との一文がありました。
    この解釈を基に不適正保管(みだりに放置等)を取り締まっていることを考えると、今般の事案も譲渡とはいえ、廃棄物として処理を委託したものを処理せず不適正に取り扱ったことから16条違反が適用できると考えました。
    廃棄物処理法の解釈は難しく、未だに苦労する事が多いですが、ケーススタディーという観点で所見を伺えれば幸いです。

  5. おかずや より:

    動植物性残さは、政令第2条第4項では、「食料品製造業、医薬品製造業又は香料製造業において原料として使用した動物又は植物に係る固形状の不要物 」と規定されています。この事例では、壱番屋は食料品製造業の当たり、冷凍ビーフカツは不要物以外の何物でもありません。しかし、製品となった冷凍ビーフカツを「原料として使用した」と見做せるかどうなのかという疑問はあり、このことから、一般廃棄物という可能性もあると考えられます。
    さくぱぱさんは、壱番屋が「産廃」として処理委託して良かったのかという疑問を持たれたのではないでしょうか。

  6. 尾上雅典 より:

    さくぱぱ様

    仰るとおり、汚泥や事業系一般廃棄物としても解釈できる部分が多い廃棄物であるのは間違いありません。

    動植物性残さと考えた根拠については、おかずやさんへのコメントで書かせていただきます。

  7. 尾上雅典 より:

    cololrless様 コメントいただき、ありがとうございました。

    現役行政官の方にご愛読いただき、大変感謝しております。

    不法投棄に該当するかについてですが、今回は当事者すべて(排出事業者以外)が廃棄物ではなく、食品として売買の対象に考えていましたし、実際に市場にまで食品として流通していましたので、廃棄物の不法投棄と扱うのは非常に難しいのではと考えております。

    もちろん、一般的な常識からすると、廃棄物を食品として流通させることは言語道断の行為ですが、
    それでも、廃棄物をみだりに投棄していたとはみなせないように思います。

    具体的な刑事罰としては、電子マニフェストの虚偽報告くらいしか該当しないのではと思います。

    次の廃棄物処理法改正のテーマになるかもしれませんね。

  8. 尾上雅典 より:

    おかずや様 コメントいただき、ありがとうございました。

    動植物性残さ扱いだったのではないか、と考えた根拠としては、
    食品製造工場から発生した不良品も動植物性残さと扱うことが多いからです。

    壱番屋の店舗で発生した揚げ損ないのビーフカツは一般廃棄物になりますが、
    今回はビーフカツの製造工場で作られた物で、プラスチック部品の混入が疑われたために不良品になった廃棄物としては、
    動植物性残さと扱うのが妥当と思った次第です。

    もちろん、実際の取引内容を見たわけではありませんので、処理業者の許可内容次第では、別の産業廃棄物の種類として委託をしていた可能性もあります。

    また、一般廃棄物ではないかというご指摘につきましては、
    仮に、愛知県が壱番屋のビーフカツを一般廃棄物と認識しているのであれば、真っ先に排出事業者の委託基準違反が取り沙汰されているはずですが、
    そこには一切触れられていませんので、壱番屋が産業廃棄物として適正に委託をしたことに愛知県も疑いを持っていないものと思われます。

    以上のように考えておりますが、
    産業廃棄物の具体的な種類を解釈するにあたっては、おかずやさんのように、原典に忠実に立ち戻る姿勢こそが最も重要だと思っております。

    今後とも、ご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

  9. 安田 より:

    法12条7項の努力義務を怠ったことにはなりませんか。中小企業ならいざ知らず、大企業ですから。

  10. 尾上雅典 より:

    安田様 コメントいただき、ありがとうございました。

    処理状況確認をしていたかどうかは外部の人間には判断がつきませんが、
    少なくとも、不法投棄をされたわけではないため、第19条の6の措置命令の対象にはならないと思われます。

  11. あとさと より:

    愛知県は条例で、現地確認が決められています。
    優良業者の場合は、確認しなくてもいいとされています。
    今回の処理業者は優良ではなさそうですが、壱番屋ほどの
    企業が、なぜ、優良業者を選ばなかったのか?
    そのあたりの、排出側の認識の薄さも問題なんではないでしょうか。

  12. 尾上雅典 より:

    あとさと様 コメントいただき、ありがとうございました。

    横流しされるリスクに対する想像力の欠如が問題の根底にあると思います。

    しかしながら、私自身が当事者の立場だったらそのリスクを認識できたかと考えると、
    ゴミを食品として横流しされる可能性はやはり考えられなかったと思います。

    あとさと様にご指摘いただいた点を、壱番屋以外の人間が自分のリスクとして共有していくことが重要だと思いました。

  13. おかずや より:

    テレビ放送の映像を見て気付いたのですが、壱番屋が廃棄を委託した物は合成樹脂系のフィルムで包装された冷凍ビーフカツなどの食料品のようですね。このような、一体となっている形態であることによって、製品としての価値を持つ可能性のある物を廃棄物として処理委託する場合、排出事業者は一体性を除去(具体的には、食料品と包装フィルムとを自社内で分離・分別)したうえで、分離・分別した物それぞれを廃棄物として処理委託をするのに適した業者に引き渡すという手法を採っていれば、今回発覚したような不祥事(横流し)を惹き起こすことは避けられたと考えられます。
    蛇足ながら、廃掃法では排出事業者が一体不可分ではない形態の物を廃棄物として処理委託する際に、その一体性を除去したうえで処理業者に引き渡すことは義務付けていないようですが、処理業者との間で締結された委託契約書と交付されたマニフェストの内容として、包装フィルム(産業廃棄物の種類でいうと、廃プラに相当すると考えられる。)が含まれていたのかどうか、いささか気になるところではあります。

  14. 尾上雅典 より:

    個別の企業間の取引詳細の推測は差し控えたいと思いますが、
    食品リサイクルに取り組んでいる処理業者の多くは、処理工程上で包装フィルムを取り除く仕組みを導入していることがほとんどです。

    もちろん、流出リスクを最大限防ぐためには、包装フィルムを除去した形で委託するのが一番であるのはそのとおりだと思いますが、コストと手間の問題になりますね。


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