失敗の根本原因

個人的には、手痛い失敗から立ち直り、それを乗り越える話が好きです。

経営や事業に失敗した人を十把ひとからげに「無能」と批判するのは早計であり、
失敗から教訓を学び、それを次に活かすことに成功した人こそ、むしろ賞賛すべきであろうと思います。

その具体例を一つ挙げるならば、三方ヶ原の戦いに大敗した後の徳川家康がいます。

家康の場合、大敗した事実を生涯忘れないように、大敗直後のしかめっ面を肖像画に書かせたという話が後世に伝わっていますが、「失敗に向き合う作法」として、「言い訳をせずに、現実をそのまま直視した」ことは、実に理にかなっています。

失敗に関する前置きが長くなりましたが、
今回ご紹介するのは、極めて珍しい行政サイドの失敗事例についてです。

2020年11月2日付 滋賀県発表 「産業廃棄物収集運搬業許可の誤りについて

1 事案の概要
令和2年6月3日付けで事業者より提出があった産業廃棄物収集運搬業許可申請書について、6月25日付けで許可を行いましたが、産業廃棄物処理業者名簿作成のために許可内容を確認していたところ、10月26日に当該許可に誤りがあることが判明しました。

誤りの内容は、取扱う産業廃棄物の種類について、申請では「がれき類」となっているものを申請とは異なる「ガラスくず」で許可を行っていたものです。

以下、滋賀県の失敗を批判するためではなく、失敗に至った原因を探り、それとどう向き合うべきかを考えるために、考察を進めていきます。

まず、このような許可対象品目の間違いは、極めて珍しいケースと言わざるを得ません。

「ガラスくず」と「がれき類」を混同すること自体がまれだからです。

ではなぜ、その珍しい混同が起きてしまったのか?

3 原因
申請書に「がれき類」と記載がありましたが、事業計画概要に「コンクリートガラ」の記載があり、別の品目である「ガラスくず」の名称中に「コンクリートくず」があることから「ガラスくず」と誤認しました。

さらに、決裁時においても、所内でチェックが徹底されておりませんでした。

5 再発防止策
今回の事案は申請内容の品目の確実な認識をすれば防げた事案であることから、受付から決裁まで、各段階での申請品目と許可品目とのチェックを複数で行うことを今後徹底するとともに、日常の業務においても所内のチェック体制の強化を図り、適切な事務処理を徹底します。

まず、「今回の事案は申請内容の品目の確実な認識をすれば防げた事案」と分析しているように、滋賀県には、今回の失敗を直視した様子がうかがえます。

しかしながら、担当者の頭の中で混同が起きた理由については触れられておらず、おそらくは、それが起きた理由に関する分析まではしていないものと思われます。

根本的に重要な点は、「なぜ『がれき類』と書かれた申請を、『ガラスくず』と脳内で書き換え(=誤認)してしまったか」です。

この点を解決しない限り、同じミスがまた起きる可能性は高いと考えられます。

私が考えるところでは、
こうした誤認が起きた背景には、「現場経験の欠如」があるように思います。

その現場経験とは、
いかつい業者と渡り合うといった修羅場のような局面ではなく、
「『ガラスくず』と『がれき類』の現物を、仕事の一環で見たことがある」という、誰でもすぐに実行できる体験です。

「ガラスやコンクリートをこれまでの人生で一度も見たことが無い」という人はいないはずなので、
観念的な「ガラスのイメージ」と産業廃棄物の「がれき類」とが、いとも簡単に結びついた原因としては、
産業廃棄物の「がれき類」に関するイメージが担当者の中に存在しなかった、すなわち「業務上の経験として、がれき類に接した体験がなかった」ことに帰結するのではないかと思いました。

もちろん、以上は私の単なる憶測でしかありませんので、真実とは異なる可能性が十分あります。

しかしながら、同様の誤りが起きるきっかけとしては、行政のみならず、他のあらゆる組織にも共通の素地があるように思います。

※今回のケーススタディ
・あなたの組織で不可欠な「現場経験」とは何ですか?
・その「現場経験」を、部下や後輩に身に着けてもらうためには、何をすれば良いですか?

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