巧みな責任回避術

昨年の真夏時の新聞記事ですので、季節外れ感満載ではありますが、非常に興味深いと同時に、近年まれに見る見事な責任回避芸を堪能させてくれる事例をご紹介します。

2021年8月23日付 京都新聞 「イノシシの死骸、なぜ行政は撤去しない?「自宅近く、においがひどいのに」

 「家の近くにイノシシの死骸があり、臭いがひどいが行政に撤去してもらえない」と、京都市北区の男性(57)から困惑した声が京都新聞社に寄せられた。市や府に取材すると、所有者の分からない私有地に動物の死骸がある場合、すぐには撤去が難しいという制度上の限界が浮き彫りになった。

 男性によると、同区原谷地区にある自宅南側に流れる水路をはさんだ山裾に、6日午前10時ごろ、体長80センチほどのイノシシが死んでいるのをベランダから発見した。「朝から腐ったような臭いがしていた」と話す。

イノシシの死骸の発見者は、その後関係行政機関にたらい回しをされることになります。

京都市の清掃センターに電話をすると、

「私有地なので撤去できない。山の所有者を探して撤去してもらってほしい。あるいは、所有者と相談して道路脇まで出してくれたら市が撤去する」

と言われたとのこと。

たしかに、法的には、京都市清掃センターの回答に一点の間違いもありません。

ただし、「ただの死体発見者」にとって、「山の所有者を探し出して連絡を付ける」ことは、現実的には非常に困難ではありますし、「死骸を道路脇に運び出せ」と言われても、高齢者の場合は事実上不可能です。

所有者と連絡が取れたとしても、公道まで移動させてもらうのが一般的で、今回のように簡単に動かせない場合は、専門業者を紹介するなどして対応してもらうという。市は「男性の気持ちは分かるが、法的には限界がある」と話す。

「イノシシの死骸を動かす専門業者」とは誰のことなのでしょうか?

そのような事業者の存在を寡聞にして存じませんが、歴史のある京都のことゆえ、代々それを家業として継承している一派があるのかもしれません。

というのは冗談で、「一般廃棄物収集運搬業者」を指しているような気がします。

だとすると、イノシシ等の動物の死体の専門業者じゃないよね?

横死した野生動物はもちろん一般廃棄物になりますので、廃棄物処理法上は、死骸が横たわる市区町村に処理責任がありますので、法の制約下で、その責任をどう果たしていくべきかを考える必要があるのも事実です。

次に、発見者の方は、京都府林務事務所に連絡をしたところ、

「腐敗が進んでいて感染確認のための血液が採取できず、動かせない」と言われたという。

 同事務所は取材に対し、「血液を採取した場合は、死骸を原則その場に埋設するという決まりがあるが、採取できないと権限がない」と説明する。その上で、「男性にはしばらく窓を閉めて生活してもらい、分解を待ってもらうしかない」と結論付けた。

真夏の時期に、「窓を閉めて生活してもらい、分解を待ってもらうしかない」とは、なかなかの鬼畜です。

分解=腐敗ですので、2日や3日で肉片が雲散霧消することはありません。

そのような状態を行政自らアドバイスをするということは、生活環境保全上の支障が発生する状況を市民に作り出させているのも同様ですので、廃棄物処理法に照らすと、極めて不適切な対応と言わざるを得ません。

もっとも、「腐るのを待て」と言った職員は林務事務所の職員のようですので、「廃棄物処理法はウチの管轄じゃないから知らないよ」という言い訳が通用してしまうのかもしれませんが。

「血液を採取した場合は、死骸を原則その場に埋設するという決まりがあるが、採取できないと権限がない」というセリフも、法律に触れることなく自己の保身を図る言い訳としては、文字どおり完璧な正論で、非の打ち所がありません。

今回の記事から、「自分の責任を華麗に回避する術」の共通点を見つけました。

1.相手ができないことを条件とする
2.法律の根拠が無いと言い張る
3.相手が根負けするまで、上記の対応を繰り返す

およそ行政機関でないと実行できないライフハックです(苦笑)。

さて、今回のケースのように、野生動物の死体を自分の家の近くで見つけたら、私ならどうするか。

2種類の方法をすぐに思いつきましたが、その詳細をブログに書くのは自粛しておきます。

ポイントとしては、「不法投棄にならない方法」を考えることに尽きます。

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