奇跡の瞬間

単なるPCB廃棄物の不適正処理かと思いきや、「コメディ」と「リーガルサスペンス(笑)」のどちらにもなりそうな秀逸な題材です。

2022年9月8日付 NHK 「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の紛失 県が三菱ふそうに改善勧告

熊本県は有害な化学物質であるPCB=ポリ塩化ビフェニルの廃棄物を誤った配送業者に渡して紛失したとして「三菱ふそうトラック・バス」に対して改善勧告を出しました。

三菱ふそうトラック・バスは8日、熊本県庁で記者会見を開き、天草市の天草サービスセンターで高濃度のPCBを含む安定器31台、低濃度のPCBを含む安定器12台を、それぞれ紛失したと発表しました。

高濃度PCB廃棄物と低濃度PCB廃棄物を一挙に紛失したという、極めてまれな香ばしい失態のようです。

「嘘でしょ」と思ったのが、報道の次の部分

安定器は水銀灯などの中に部品として組み込まれていたもので、会社によりますとことし1月、従業員がサービスセンターに来た配送業者をPCBの廃棄物の回収業者と勘違いし、安定器を渡したということです。

7月になって、会社の本部からサービスセンターに本来の回収日についての連絡があり、紛失に気がつきました。

疑問1 なぜ、急に1月に、PCB廃棄物(高濃度と低濃度の両方とも)の適正(?)処理に目覚めたのか?

その後の実務的手順を見る限り、極めて杜撰、かつ違法としか言えない処理委託をしているにもかかわらず、
なぜ1月に入って急に、「そうだ!PCB廃棄物を急いで回収してもらわなければ!」と、意識が急激に次元上昇したのでしょうか?

本社からのPCB廃棄物処理に関する情報提供や意識啓発がそのタイミングであったのかもしれませんが、
まるで犯罪証拠の隠滅を図るがごとき焦りようで、正式な委託手順には目もくれず、廃棄物回収だけを急いだ理由がまったくわかりません。

疑問2 配送業者を収集運搬業者と間違える人なんているのか?

普通、配送業者とは、貨物を運ぶ運送業者を指します。
と、この事実を書きながら、「PCBの回収業者は大手の配送業者だったのかな?」と思いましたが、

従業員は訪問した業者の目的を確認せず、やりとりが不十分なまま渡し「どの業者に渡したのか記憶がない」と話しているということです。

とありますので、どんなに記憶力に自信が無い人でも、相手が大手の配送業者なら社名くらいは覚えていそうなものですので、渡した相手は大手の配送業者ではないのかもしれません。

もっとも、次の疑問3で指摘をしますが、そのような配送業者はそもそも存在していなかった可能性がありますが(苦笑)。

いずれにせよ、一般的には、配送業者と収集運搬業者は乗っている車自体が全然違いますし、トラックやバスの販売事業者である企業の従業員が、それらの車両を誤認する可能性は限りなく低いと思われます。

疑問3 配送先を告げずに、どうやって廃棄物を持って帰らせたのか?

高濃度PCB廃棄物はJESCOでしか処分できませんので、配送先を「JESCO」とすることになりますが、事前調整なくJESCOに処分委託することは不可能です。

仮に、配送業者がJESCOに持って行ったとしても、門前払いされるだけとなりますので、その場合は困った配送業者から排出事業者に連絡が入るはずです。

そのため、配送先を示さずに、「とりあえず廃棄物を持って帰ってくれ」という頼み方をしたと考えるしかありません。

しかし、この頼み方は、ちょっと考えられないくらいに乱暴な方法です。

荷物をどこに運んでもらうかは、依頼者と受託者の双方にとって不可欠な合意事項ですので、配送先不明のまま(初見の?)配送業者側が配送依頼を素直に引き受けてくれるとも思えません。

繰り返しになりますが、自動車販売企業の従業員が、追い立てられるかのように「配送先は後で連絡するから、とりあえず今すぐ持って帰ってくれ。」などと、乱暴な依頼をすることは考えにくいのですが、同社においては、このような乱暴な配送依頼が常識だったのでしょうか?

疑問4 持ち帰らせた配送業者から請求は無いの?

PCB廃棄物を持ち帰らせられた配送業者が実在するならば、必ず「配送費の請求」という手続きが発生します。

「ゴミを押しつけられて困っちゃったよ~ゴミを抱えたまま泣き寝入りするしかない(泣)」という気弱すぎる運送会社は存在しないと思われます。

PCB廃棄物が入った箱を半年以上も無償で、しかも無言で保管し続けてくれる配送業者も存在しないと思われます。

廃棄物の回収を押しつけた相手が実在するならば、「配送費の請求」は必ずされているはずですので、その線から、配送業者を特定することはそれほど困難ではないように思いました。

それができないということは・・・

最初から、そんな気弱で、杜撰な配送業者は存在しなかったと考えざるを得ません。

まだまだ細かい部分で違和感がありますが、常識的な取引感覚から矛盾を感じた点は以上の4点です。

もっとも、「事実は小説より奇なり」と申しますので、私の愚考を上回る愚行が実際に横行し、おバカな当事者が一堂に会したことで起きた奇跡の瞬間であった可能性もあります。

個人的には、「担当者か(実在が疑わしい)配送業者のついた嘘」ではなく、「奇跡の瞬間」の方にロマンを感じます。

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