イノシシの首実検

2022年11月10日付 読売新聞 「イノシシの死骸を山中に投棄、男2人を書類送検…「穴を掘るのがめんどくさかった」

 イノシシの死骸を山中に捨てたとして、香川県警さぬき署は9日、さぬき市内の男2人(いずれも74歳)を廃棄物処理法違反と鳥獣保護法違反の両容疑で書類送検した。2人は狩猟仲間で、駆除の奨励金として同市から30万円以上をこれまでに受領。容疑を認め、「埋めるための穴を掘るのがめんどくさかった。過去にも捨てた」と供述しているという。

 発表では、2人は8月30日、さぬき市の畑近くの罠から、5頭の成獣のイノシシの死骸を市内の山中に車で運び、投棄するなどした疑い。

「牡丹鍋」として有名なイノシシ肉ですが、食用に加工するためには、専用の加工場に運ぶ必要がありますので、山深い場所から数十キログラムの重いイノシシの死体を迅速に運搬するのはかなり困難です。

そのため、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」では、捕獲した鳥獣の死体を「捕獲をした場所に、生態系に大きな影響を与えない方法で埋める」ことが認められています。

今回の事件では、その「適切な土中埋設」を怠り、イノシシの死体を山中に運んで不法投棄していたため、廃棄物処理法と鳥獣保護管理法の違反容疑で書類送検されています。

今回不法投棄されたイノシシの死体は、レジャーや趣味としての狩猟で捉えた獲物ではなく、農作物被害を減らすために行われた「有害鳥獣駆除」の一環で発生したものです。

「30万円以上の奨励金」という金額が若干クローズアップされているため、狩猟者がボロ儲けをしたかのような印象を受けてしまいますが、イノシシ捕獲後の処分、運搬、埋設の手間を考えると、ボロ儲けどころか、ボランティアに近い重労働に思えます。

さぬき市の具体的なイノシシ駆除報酬額は存じませんが、一般的な相場としては、イノシシ一頭の駆除で「0円から数万円」という価格帯になるようです。

仮に、イノシシ一頭あたり1万円とすると、
「罠(捕獲用のオリ)の適切な管理」や、「罠の設置」、「捕まえたイノシシの処分や運搬」をほぼ人力で行うことを考えると、それほど割の良い報酬とは言えないと思います。

また、狩猟免許所持者は年々高齢化する一方ですし、今回書類送検された二人の狩猟者はいずれも74歳と、重いイノシシの死体の運搬や、埋設用の穴掘りは、割と過酷な作業だったと思われます(体力と筋力に恵まれた人ならば容易かもしれませんが)。

もちろん、そのような事情があったとしても、不法投棄をやっても良いということにはなりません。

しかし、有害鳥獣の駆除という公共の福祉のために協力してくれている人を、比較的安い報奨金にかこつけて肉体的負担を課し、それを負いきれない人を自動的に犯罪者にしてしまう状況は、不条理と言わざるを得ません。

有害鳥獣駆除に限っては、地方自治体が積極的に回収に回る、あるいはできるだけスムーズに(無料で)廃棄物としての受入れができる体制を構築するべきではないかと思いました。

新聞の表現では、

市から駆除の奨励金を受け取るにはイノシシの耳と尾が必要で、2人は死骸から耳と尾を切り取り、提出していた。

とありますが、おそらく、協力者が市役所に直接請求する形にはなっていなかったはずです。

イノシシの耳と尾は、協力者が所属する猟友会への報告に使用したのではないかと思います。

市役所に直接イノシシの耳と尾を添付して請求する場合、市役所内に著しい悪臭が漂うに違いないからです(笑)。

イノシシ捕獲の証拠とするならば、「尾」だけでも十分かと思いますが、「耳と尾」のセットでないと不正報告が起きるのでしょうか?

なんらかの理由があって、「耳と尾」の切り取り報告になったものと思われますが、個人的には、イノシシの耳を切り取る場面から戦国時代以前の武士の戦果報告を想起してしまいました。

 イノシシの死骸は鳥獣保護法に基づく市のルールで、1頭1000円の手数料を支払って市に焼却処分を依頼するか、自身の所有する土地に埋める必要がある。

この表現には補足が必要そうです。

正確には、上述したとおり、鳥獣の死体の埋設が認められる場所は、「鳥獣を捕獲した場所」であり、「自身の所有地」ではありません。

そのため、山で捕獲した鳥獣の死体を自宅に持ち帰って処理し、残った部分を自宅の敷地に埋める行為は、「不法投棄」でしかありません。

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