Vol.8 「海図」の再生利用

海の地形や水深等を記した「海図」は半永久的に使えるものと漠然と想像しておりましたが、どうやら素人考えだったようで、情報が変わるたびに更新されているそうです。

船舶の安全な航行のために使用する地図ですから、正しい情報にアップデートしていくことは当然の話ですが、海上の開発スピード
は、素人の私の想像を上回る早さで進んでいるようです。

登山に不可欠な「地形図」の場合、一昔前ならば、大型書店等で2万5千分の一の縮尺地形図を購入することが一般的でしたが、最近では、あらかじめスマートフォンにダウンロードしておき、GPS情報に基づく踏破ルートや時間を自動的に記録するアプリを利用することが主流となっています。

しかし、海の場合は、やはりインターネットを利用できない場所がほとんどであるため、今後も紙の海図が利用し続けられるものと思われます。

そうなると、情報が古くなった古い海図は一斉に不用物となり続けるわけですが、
横浜市で30年来その古い海図の再生利用に取り組み続けてきた企業に関する報道がありました。

2023年10月27日付 産経新聞 「ロングセラー廃版海図グッズ、SDGsで脚光 企業向けの製品販売、売り上げの一部寄付

廃版になった海図を使用した封筒などのロングセラー製品が、近年活発になっている企業の持続可能な開発目標(SDGs)に関する活動で取り入れられている。製造するのは「エクスポート」(横浜市中区)で、地形の変化などで使えなくなった海図を再利用して廃棄物削減に貢献できるだけでなく、地図の曲線などが生み出すデザイン性も好評だ。売り上げの一部は海洋保全関連の寄付に充てられており、港町の横浜らしい取り組みが脚光を浴びている。

「みなとみらい桟橋」「東防波堤」…。地形や地名、灯台の位置、水深などが細かく書き込まれた厚めの紙がしっとりと手になじむ。封筒などの「廃版海図シリーズ」は販売開始から30年近いロングセラー商品となっている。

船舶への備え付け義務がある海図は、地形や海岸の建造物などの情報が変化する中で改版が繰り返され、そのたびに大量の廃版が生まれる。廃版の再利用で産業廃棄物削減、紙資源の有効活用につなげる同社の製品はSDGsの考え方とも合致しており、同社は令和2年にSDGsに取り組む企業に向けて販売を始めた。

エクスポート社のホームページには、「海図扇子」から「海図レターセット」「海図封筒」「海図メモブック」等々、海図を使用したほぼ一品物の商品が掲載されています。

個人的には「海図ブックカバー」が格好良いと思いました。

単に海図を裁断するだけではなく、部材ごとに最適な使用場面を工夫し、手間暇かけて加工をしている気配が伝わってきます。

廃版海図が出ると、営業担当者が枚数1~2千枚、重さ数百キロの海図を車で受け取りに行く。製造過程で機械に引っ掛かるものは手作業で省き、切れ端は小さなブックマーカーにするなどして使い切る。

切れ端まで無駄にしないという心意気が素敵です。

1千枚単位の回収ということは、個別の船舶ではなく、海図の印刷会社等から提供を受けているようですね。

印刷会社、あるいは海図販売者による古い海図の下取回収等と絡めれば、各地の港湾近傍都市でも同様の取組みができるかもしれません。

もっとも、形をまねること自体は簡単ですが、事業の根底に「情熱」と「責任感」が無ければ、30年以上も再生利用事業を継続させることはできないとも思いますが。

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