おそれ条項の適用で許可取消(埼玉県)

今回は許可取消理由としては比較的レアケースとなる、「おそれ条項の適用」をご紹介します。

2015年10月27日付 埼玉県発表 「産業廃棄物処理業者に対する行政処分(許可の取消し)について

4 処分理由
 有限会社田嶋興業の役員は、産業廃棄物収集運搬業に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者であることから、同社の産業廃棄物収集運搬業の許可を取り消した。
 この役員は、秩父市内において埼玉県土砂の排出、たい積等の規制に関する条例に違反して土砂を堆積した法人とともに、本県知事から措置命令を受けた者である。本県は、措置命令の履行期限後も、繰り返しこの役員に対して土砂の撤去を求めてきたが、同人は一部を撤去したのみで、平成25年7月以降土砂の撤去を行っておらず、また、秩父市道上及び他人の所有地上に土砂をたい積させながら原状に復していない。
 以上のことから、この役員は、産業廃棄物収集運搬業に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者に該当する。
 この役員は、有限会社田嶋興業の役員であるので、同人が法第7条第5項第四号トに該当するに至ったことにより、同社は、法第14条の3の2第1項第二号に該当する(同号に規定する法第14条第5項第二号ニ、同ニに規定する同号イ、同イに規定する法第7条第5項第四号トに該当)ため。

被処分業者自体が廃棄物処理法違反をしていたわけではありません。

被処分業者(A社)の役員の一員(仮に▲▲氏とする)が、被処分業者とは別の法人(仮にB社とする)でも役員を務めており、
B社が埼玉県条例に違反した土砂の堆積を継続し、埼玉県からの度重なる指導や措置命令にも従わなかったため、
▲▲氏は、産業廃棄物収集運搬業に関して不誠実な行為をする恐れがある人物(欠格者)と埼玉県からみなされました。

被処分業者であるA社は埼玉県条例違反の行為をしていた会社ではありませんが、
A社の役員である▲▲氏が欠格者となってしまったため、土砂堆積とは無関係のA社の許可が取消されることとなりました。

「おそれ条項」の法的な定義は、廃棄物処理法第7条第5項第四号トに置かれています。

(一般廃棄物処理業)
第7条 一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては、一般廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。ただし、事業者(自らその一般廃棄物を運搬する場合に限る。)、専ら再生利用の目的となる一般廃棄物のみの収集又は運搬を業として行う者その他環境省令で定める者については、この限りでない。
2~4 (略)
5 市町村長は、第一項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
一 当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難であること。
二 その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること。
三 その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。
四 申請者が次のいずれにも該当しないこと。
イ~ヘ (略)
ト その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者
チ~ヌ (略)

その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」という表現だけでは、今一つ具体性に欠けますので、環境省は「行政処分の指針」において、その者の特性を以下のように補足説明しています。

 同号トの「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」とは、法第7条第5項第四号イからヘまで及び第14条第5項第二号ロからへまでのいずれにも該当しないが、その者の資質及び社会的信用性等の面から、将来、その業務に関して不正又は不誠実な行為をすることが相当程度の蓋然性をもって予想される者をいうこと。具体的には、次のような者については、特段の事情がない限り、これに該当するものと考えられること。
イ 過去において、繰り返し許可の取消処分を受けている者
ロ 法、浄化槽法、令第4条の6各号に掲げる法令若しくはこれらの法令に基づく処分に違反し、公訴を提起され、又は逮捕、勾留その他の強制の処分を受けている者

廃棄物処理法施行令第4条の6
 法第7条第5項第四号ハに規定する政令で定める法令は、次のとおりとする。
一 大気汚染防止法
二 騒音規制法
三 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
四 水質汚濁防止法
五 悪臭防止法
六 振動規制法
七 特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律
八 ダイオキシン類対策特別措置法
九 ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法

ハ 暴力団対策法の規定に違反し、又は刑法第204条、第206条、第208条、第208条の3、第222条若しくは第247条の罪若しくは暴力行為等処罰ニ関スル法律の罪を犯し、公訴を提起され、又は逮捕、勾留その他の強制の処分を受けている者(当該違反又は罪が廃棄物の処理に関連してなされ又は犯された場合に限る。)
ニ ロに掲げる法令又はこれらの法令に基づく処分に係る違反を繰り返しており、行政庁の指導等が累積している者
ホ 収集運搬業者が道路交通法に違反して廃棄物の過積載を行い、又は処分業者が廃棄物処理施設の拡張のために森林法に違反して許可を受けずに森林の伐採等の開発行為を行い、若しくは都市計画法や農地法に違反して開発許可や農地の転用の許可を受けずに廃棄物処理施設を設置するなど、廃棄物処理業務に関連して他法令に違反し、繰り返し罰金以下の刑に処せられた者(なお、繰り返し罰金以下の刑に処せられるまでに至っていない場合でも、廃棄物処理業務に関連した他法令違反に係る行政庁の指導等が累積することなどにより、上記と同程度に的確な業の遂行を期待し得ないと認められる者については、下記チに該当すると解して差し支えないこと。)
ヘ 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的、又は第三者に損害を加える目的をもって、暴力団員を利用している者(例えば、自己又は自社と友誼関係にある暴力団の威力を相手方に認識させることにより、その影響力を利用するため、自己又は自社と友誼関係にある者が暴力団員であることを告げ、若しくは暴力団の名称入り名刺等を示し、又は暴力団員に対し暴力団対策法第9条各号に定める暴力的要求行為の要求等を行った者)
ト 暴力団員に対して、自発的に資金等を供給し、又は便宜を供与するなど直接的あるいは積極的に暴力団の維持、運営に協力し、若しくは関与している者(例えば、相手方が暴力団又は暴力団員であることを知りながら、自発的に用心棒その他これに類する役務の有償の提供を受け、又はこれらのものが行う事業、興行、いわゆる「義理ごと」等に参画、参加し、若しくは援助している者)
チ その他上記に掲げる場合と同程度以上に的確な業の遂行を期待し得ないと認められる者

このように、他の欠格要件とは異なり、「おそれ条項」は法律で具体的な要件が明示されていないため、それをどのように解釈するかは行政庁の裁量となります。

また、環境省が発出した「行政処分の指針」は、環境省からの単なる「技術的助言」に過ぎず、行政庁がそれに則って判断したことの正当性を担保してくれるわけではありません。

したがって、行政庁(都道府県)としては、おそれ条項を適用して許可取消を行う場合は、「不誠実な行為を行う恐れがある」ことを裏付ける証拠収集をしたうえで、慎重に判断を行うことになります。

一役員が被処分業者とは別法人で行った県条例違反におそれ条項を適用し、そこからさらに条例違反とは無関係の法人の許可取消を行うというのは、非常に珍しいケースです。

環境省の「行政処分の指針」でも、埼玉県条例違反の土砂堆積行為が「おそれ条項」の適用対象になるとは書いていませんので、「チ その他上記に掲げる場合と同程度以上に的確な業の遂行を期待し得ないと認められる者」という例示を根拠として、埼玉県は許可取消処分を行ったのではないかと思われます。

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