「鹿沼事件」発生から20年・・・

「鹿沼事件」の概要を思い浮かべることができる人は、現在ではかなり少なくなったのかもしれません。


栃木県の鹿沼市役所職員が、廃棄物処理業者に逆恨みをされ、その業者から殺害依頼を受けた暴力団員に殺害されるという事件が、2001(平成13)年に勃発しました。

逆恨みと言っても、その職員の方に落ち度はなく、組織内で誰も助力してくれないという孤独な状況の中、公平かつ公正な行政運営のために孤軍奮闘していた真っ当な方でした。

事件の経緯と顛末は、下野新聞「鹿沼事件」取材班によってまとめられた左の本に詳しく書かれていますので、特に現役公務員の方にはお読みいただくことを強くお薦めします。

「狙われた自治体 ゴミ行政の闇に消えた命」

一般廃棄物行政と産業廃棄物行政という違いはありましたが、
事件が発生した2001年当時は、私自身が産業廃棄物規制の担当者になったばかりの年であったため、他人事とは思えない事件でした。

幸い、私が在籍していた当時の兵庫県阪神北県民局環境課では、産業廃棄物行政の経験豊富な人が上司であったため、その上司自身の経験から「事業者には決して一人で対応するな」「個人ではなく、必ず組織として対応すると心がけよ」という基本方針が打ち立てられていましたので、経験不足だった私でもなんとか大過なく仕事をこなせました。

しかしながら、同僚の中には、我が身可愛さにその基本方針を無視し、外部の(アウトローとおぼしき)人間に私の氏名を知らせる者がいたため、組織ではなく私個人に圧力や要求が来るという修羅場を数回経験したことがあります。

ちなみに、その当時に、応対した相手方から「お前 六甲山に埋めたろか」とか「南港に沈めるぞ」と言われたことも何度かあります。

今改めて思うと、これは明らかに「脅迫」ですね(苦笑)。

公務員の最大の強みは「組織であること」だと、公務員を辞めてからまざまざと実感しましたが、
こと廃棄物行政においては、この強みが発揮されることなく、担当者個人が何らかの解決策を示さない限り、行政としての動きがまったく進まないという事態によく陥ります。

今現在、「担当者個人の責任で物事を収めなければならない」というプレッシャーを感じている現役公務員の方も多いのではないかと思います。

そのような状況は、「組織構成員間の知識レベルの差」に起因することが多く、鹿沼事件のように組織上層部の人間に適切な法律知識が無い場合は、致命的なリスクとなり得ます。

「産業廃棄物のことはよくわからないので、担当者のあいつに任せておけば(=丸投げすれば)良いだろう」という、思いやりや、上司としての責任感にかけた組織的不作為の温床となるからです。

これは行政機関のみならず、会社組織においても同じことが言えます。

廃棄物処理法では、「委託基準」に代表されるように、「組織としての責任」よりも「担当者個人の法的な責任」が問われる局面が実は多いのです。

「担当者以外の人は、担当者がどんな仕事をしているか正確に知らない」という状況が普通であることが多いと思いますが、「組織が発生させた廃棄物」である以上、その処理責任を組織自身が負うことが当然ですし、担当者個人を責任感で押し潰すことがないよう、関係者全員が一定レベル以上の法的知識を有していることが不可欠です。

私、非才の身ではありますが、社会を構成する皆々様の法的知識底上げの一助を担わせていただいていることに、大きな意義を感じております。

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