教えられない理由

あるお客様と話しているとき、「お役所は例外措置を教えてくれない」という嘆きを聞きました。

「官僚であれば、法律のことを何でも知っているに違いない」と考えたくなりますが、実際には、そうではない方が多いです。

そうなる理由は2つあり、
第1の理由は、「現代の法律体系が複雑になった」ことが挙げられます。

たとえば、廃棄物処理法に基づく許可申請に対処する際には、「廃棄物処理法」の規制を受けることは当然として、行政官としては、「行政手続法」「地方自治法」「各自治体ごとの行政手続条例」その他の、複数の法令の整合性を瞬時に判断しなければなりません。

業務経験の長さによって、この判断の確実性は高まる傾向にありますが、一人の行政官がそれまでに経験できる法律の数はそれほど多くないことが通例ですので、究極的には、行政官自身の関心や向上心、そして視野の広さによって、行政指導の適格性は大きく異なることになります。

私自身、諸法令の規制が、現実社会にどのような影響を及ぼし、どのように繋がっているかを理解すると、それまでは単調な事務作業としか思っていなかった仕事が急に面白くなる、という経験を何度かしたことがありますので、「知的好奇心」は、行政官にとって非常に重要な素養であると思っています。

しかしながら、昔ならいざ知らず、行政官の世界でも「一人で何役もこなす」マルチタスクが当たり前となっている昨今、知的好奇心を自由に発露させるだけの時間が無いというのが現実です。

そのため、年々新しい法律は増える一方なのに、一人の行政官が把握できる法律の数は減少せざるを得ないため、視野が広い行政官が勝手に育つことを期待する方が無理というものです。

放っておくと「たこつぼ」的な人材しか育たない環境でもありますので、意識的に「視野が広い人材の育成」を図っていかなければ、行政官の小粒化は免れないと思われます。

第2の理由は、「人事異動サイクルの短期固定化」です。

多くの官僚機構においては、「3年間に一度」という人事異動サイクルが採用されています。

一方、廃棄物処理法は、小さな改正であれば、数年に一度という頻度で頻繁に改正されていますが、
「廃棄物処理制度専門委員会」を設置して、大々的に審議を行う場合は、5年から7年の間に一度という頻度になります。

近年は、「2017(平成29)年」と「2010(平成22)年」にそれぞれ設置されています。

2022年現在で廃棄物処理法を担当している行政官で、「2010年改正の時からずっと廃棄物担当」という方はほとんど存在しないと思います。

環境省の場合はなおさらそうだと思われます。

法律改正の際には、法律改正に踏み切った理由が必ず存在し、それを知ること自体が法律への理解を深めることに繋がりますが、「3年に一度」という異動頻度の場合、10年以上前の法律改正理由まで遡って知る機会が普通はありませんので、ややもすると「条文ありき」で、条文だけに忠実だが現実性に乏しい回答を繰り出すことになりがちです。

「処理困難通知」や「少量建設廃棄物のみなし事業者運搬の特例」等の2010年改正で加わった制度内容を、2022年現在の行政官全員が熟知しているかというと、おそらくそうではないと思います。


もちろん、多くのお役所には、過去発出された通知等が膨大なデータベースとして蓄えられていることと思います。

しかしながら、そのデータベースは、「知的好奇心に富み意欲的な人」にしか微笑まない埋蔵資源のような存在です。

当ブログでは、その埋蔵資源をできるだけわかりやすい形で採掘し、最低限必要な「時系列」と「複合的な法体系」の両方を吸収していただけるように、微力ながら今後も解説を続けていく所存です。

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