サンプル提供だけで排出事業者責任を果たしたと言えるか

日付が前後してしまいますが、DOWAハイテックの委託基準違反の関連報道のご紹介。

産経ニュース 「経験あったのに…」怒り隠せない県担当者 県と業者、法的責任めぐり対立

(埼玉)県は、DOWA社が廃液にHMTが含まれていることを産廃業者に告げなかったことが廃棄物処理法に抵触する可能性もあるとみて「道義的責任がある」と主張するが、DOWA社は「法的責任はない」と真っ向から反論している。

 「DOWA社には過去の経験もあったし、知見もあったはず。適切に処理できるか事前に確認していれば、流出の可能性に気づいて当然だった」

 25日朝、県庁で開かれた記者会見で、県水環境課の半田順春課長はやや強い口調でDOWA社の対応を非難した。同社は平成15年11月にもHMTを川に排出し、浄水場からホルムアルデヒドが検出される事故を起こしているからだ。

 それ以降、同社では廃液に含まれる含有物質と水分の分離処理を行い、上澄み分は川に排出、残りは産廃業者に処分を委託して再発を防止していたという。

 しかし、5月中旬ごろ、業者側のトラブルなどで一時的に代替業者が必要になり、廃液は高崎市内の産廃業者2社に臨時に委託することになった。このうち、1社は焼却処理したが、もう1社は通常の中和処理で対応、HMTの十分な排除には至らなかった。

 中和処理で対応した業者は県に対し、「DOWA社から提出された成分分析値の報告書にHMTは表記されていなかった」と証言したという。半田課長も「もし知らされていれば、この業者は受託しなかったと考えられる」と述べた。県はDOWA社の行為が廃棄物処理法に基づく告知義務違反に当たる可能性があると判断し、事実確認を開始。「断水などを引き起こした結果は重大」として、法律違反が確認されていない段階での実名公表にも踏み切った。

 一方、DOWA社は産経新聞の取材に対し、報告書でHMTを表記しなかったことを認めた上で「主成分でない物質まで細かく表記する義務がそもそもない。今回の件に全く責任がないわけではないが、少なくとも法的責任はない」と主張している。

事故発生直後の5月25日に、埼玉県がDOWA社を実名公表した経緯が報道されていました。

当ブログでも触れた内容の、DOWA社の行為が委託基準違反に該当するかどうかで、埼玉県とDOWA社の意見が対立しています。

私の意見では、DOWA社は

  • ヘキサメチレンテトラミンが廃液に含まれることを知っていた
  • ヘキサメチレンテトラミンが水源汚染を引き起こすことを知っていた
  • 廃液を排水する際には、ヘキサメチレンテトラミンを廃液から分離して処理しなくてはいけないことも知っていた
  • という3点を持って、排出事業者として、ヘキサメチレンテトラミンが廃液に含まれることを処理業者に通知すべき義務があったと考えています。

    DOWA社が主張するように、「ヘキサメチレンテトラミンそのものの告知義務はなかった」というのは、木を見て森を見ないを地で行く、法令順守至上主義の弊害であると思います。

    廃棄物処理法では、個別の化学物質をいちいち例示して告知義務の有無を決めているわけではなく、委託基準(法第12条第6項、施行令第6条の2)の中で、「産業廃棄物を取り扱う際に注意するべき事項」を契約書に明記するか、WDS、あるいはMSDSなどで情報提供する義務が定められています。

    施行規則第8条の4の2

    令第6条の2第四号ヘ(令第6条の12第四号の規定によりその例によることとされる場合を含む。)の環境省令で定める事項は、次のとおりとする。

    一~五 略
    六  委託者の有する委託した産業廃棄物の適正な処理のために必要な次に掲げる事項に関する情報
    イ~ホ 略
    ヘ その他当該産業廃棄物を取り扱う際に注意すべき事項

    個別の物質の告知義務がないからと言って、有害物質を環境中に垂れ流されてはたまったものではありません。

    そういった非意図的な流出を防ぐために、PRTR法に基づいて、有害化学物質の移動量などを把握しているわけなのですが。

    図は PRTR広場事業所検索ページ でDOWAハイテックを検索した結果の表示

    5月29日付の産経ニュース DOWA社、委託契約書など埼玉県に提出

     県によると、DOWA社が提出したのは産廃業者計5社との委託契約書と産業廃棄物管理票。同社は県担当者に対し、産廃業者には廃液のサンプルと成分表を渡し、処理できるとの回答を得た上で委託したと説明したという。

     県は「契約書ではHMTについて説明されていなかった。業者とのやり取りも運搬業者任せという印象を受けた」としている。DOWA社の仁科正行取締役は取材に対し「起きたことは大変遺憾。業者にはHMTなどについて十分に情報提供した」と釈明した

    どうもここ数日のDOWA社の広報対応は拙劣なものが続いています。

    サンプルを提供したからと言って、十分な情報提供をしたことにはまったくなりません。

    このような無知なコメントを取締役がするようでは、組織として廃棄物管理がおざなりだったと公表しているようなものです。

    処理業者の立場からすると、廃液のサンプルを提供されたとしても、その中に含まれるすべての化学物質を分析することなど通常の処理費用の範囲だけでは不可能です。

    排出事業者が明らかに存在を知っていた有害物質については、それを隠すことなく、処理業者に情報提供するのが当然の姿です。

    今回の教訓

    今回の事件は、排出企業側のコンプライアンス態勢や、委託基準のとらえ方など、大変深い問題提起をしてくれました。

    排出事業者や処理業者といった立場の垣根を越えて、廃棄物管理に携わるすべての関係者が「他山の石」とするべき事例だと思います。

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