テナントビルのビル管理会社への契約委任の可否(補足)

2011年10月26日付の記事 テナントビルのビル管理会社への契約委任の可否 で、
「テナントがビル管理会社に契約締結権限に関する委任状を交付すれば、ビル管理会社が一括して処理委託契約を結ぶことは可能」という環境省の見解を紹介しました。

ただし、注意が必要なのは、ビル管理会社がビルから発生する廃棄物の排出事業者になるわけではなく、
あくまでもテナントから契約締結の委任を受けただけですので、各テナントが排出事業者として処理業者と契約する必要があるという解釈です。

環境省の説明の〝一括して”という言葉を、本来の用法から忠実に解釈すると、
排出事業者責任がテナントからビル管理会社に移転(環境省は転嫁と言っています)するのではなく、
「ビル管理会社は各テナントの複数の契約書を取りまとめ(一括)、テナントの名義において処理業者と契約締結する」と解釈するのが妥当だと思われます。

契約書の書き方としては、本来なら各テナントごとの複数の契約書となるべきところを、
甲 別紙テナント一覧表のとおり
乙 処理業者
丙 ビル管理会社(丙は契約の当事者にしなくても良い)
(+ 各テナントからビル管理会社への委任状を契約書と一緒に丙が保存)

と一本の契約書に一括する、と運用することも可能だと考えられます。

実質的には、一本の契約書でビル全体の産業廃棄物処理委託をすることが可能なわけですから、排出事業者が各テナントかビル管理会社かについてこだわる意味が無いと思う方が多いかもしれません。

しかし、テナントが契約当事者、すなわち排出事業者になるかどうかは、廃棄物処理法上非常に大きな意味があります。

ビル管理会社が排出事業者になるとすると、各テナントは廃棄物を排出しているのに排出事業者ではないという、大変曖昧なポジションになります。

この議論がわきおこった、平成6年当時の旧厚生省の通知を読むと、上記の趣旨がよく理解できると思います。

【産業廃棄物の運搬、処分等の委託及び再委託の基準に係る廃棄物の処理及び清掃に関する法律適用上の疑義について】

平成6年2月17日付衛産20号
厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知

(事業者団体等への委託契約権限の委任)
問2 排出事業者が直接処理業者と契約を締結せず、排出事業者団体等に契約締結権限を委任することにより、委任を受けた排出事業者団体と産業廃棄物処理業者が処理委託契約を締結する(ただし、契約の当事者は、排出事業者と産業廃棄物処理業者)ことは、法第12条第3項に違反しないか。
答 契約締結に関する権限のみを委任状を交付し委任するのであれば差し支えない。この場合、当該排出事業者団体等は法第19条の4に規定する処分を委託したものに該当しないなど、排出事業者責任まで委任できるものではないことに留意すること。

(1つの契約書による複数の事業者との契約)
問3 排出事業者と処理業者が委託契約を締結するに当たり、複数の排出事業者名を列記、押印するとともに、各排出事業者ごとの委託量を記入する契約書でも、令第6条の2第2号(第6条の5第2号においてその例によることとされている場合を含む。)の契約書として差し支えないか。
答 お見込みのとおり。

問2の答が、現在の環境省の説明よりも具体的、かつ丁寧です。
これをお読みいただくと、ビル管理会社がテナントの代わりに排出事業者になるわけではないことが明確であると思います。

ちなみに、問2の疑義解釈は、JAや漁協などの団体が組合員の代わりに処理業者と契約することの可否に関するものです。

そして、各テナントを列挙し、処理業者と一括して契約できると書いた根拠が、問3のとおりとなります。

廃棄物処理法の条文を忠実に解釈すると、
テナントが排出した廃棄物の排出事業者はテナントにしかなりません。

排出事業者責任をテナントからビル管理会社に移転したいのであれば、
環境省が自由に出せる紙切れたる単なる通知ではなく、
2010年改正で第21条の3(建設廃棄物の処理に関する例外)を新設したのと同様に、廃棄物処理法の改正が必要となります。

日本は法治国家ですので、通知という役所の恣意的な判断ではなく、法律の条文に則った運用をしないといけません。

法律で例外規定が置かれていない以上、テナントが出した廃棄物についても、他の産業廃棄物と同様に扱わざるを得ません。

「廃棄物処理法は悪法だ」とか、「現代社会に対応していない」と散々な評価をしている方がたくさんおられますが、
現代社会に対応していないのであれば、対応させるように改正すれば良いだけのことです。

それをせずに、役所の判断ですべてが決まるという思い込みこそ、「現代社会に対応していない」と言えるのではないでしょうか?

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