精神論の流布

ようやく、2016年2月29日付記事 「環境省が作成した「食品廃棄物転売の再発防止策」について」の続編を書けます。

環境省が作成した食品廃棄物転売防止策の主眼は、下記の3点でした。

1.電子マニフェストの機能強化を図るため、不正を検知できる情報処理システムの導入を検討。
2.廃棄物処理業者に対して、抜き打ちの立ち入り検査等により監視体制の強化を図るとともに、処理状況の徹底した情報公開を求めること。
3.排出事業者に対して、食品廃棄物を廃棄するに当たり、そのまま商品として転売できないような形で廃棄することを要請。

2月24日に開催された中央環境審議会循環型社会部会で、はじめて審議が行われましたが、
その際の傍聴記で書いたように、委員からは再発防止策に対して注文が入ることもありませんでした。

しかしながら、現場に根差した実務家の視点からすると、「大して効果は無いのでは?」と思わざるを得ませんでした。

そもそも同じ事件が起こる確率は?

産業廃棄物処理業界ができてから今年で46年目になりますが、産業廃棄物処理業者が大々的に食品廃棄物を食品として販売していたケースは、今回が初めてでした。

では、小規模な転売ならあったのかというと、少なくとも、事件として報道された事例は皆無であろうと思います。

一般的には、46年前よりも、現在の産業廃棄物処理業者の遵法意識の方が格段に上ですが、30年以上前の混沌とした状況においても、今回のような事件は起こらなかったのです。

横流しの発覚で失うこととなる「業許可」や「地域からの信頼」を考えると、横流しが実行するに値する行為であるとは普通の人は思いません。

以上のことを考慮すると、将来的に同じ事件が起こる確率はかなり低いと思われます。

対策はいずれも精神論の域を超えず

結局のところ、環境省の対策案が仮に無かったとしても、二度と同じ事故は起こらない可能性が高いのですが、せっかくですので、対策案が有効かどうかに関し私見を述べます。

1.電子マニフェストの機能強化を図るため、不正を検知できる情報処理システムの導入を検討。

※電子マニフェスト限定の対策案のようなので、紙マニフェストを運用した場合には効果がありません。

また、循環型社会部会の中で、環境省は「受託量と処理実績に大幅な乖離があった場合は、自動的にアラートを送るシステム」と説明していました。

ということは、受託量と処理実績に乖離がない、すなわち不正業者が虚偽の報告をした場合には、今までどおり不正を見抜けないということになります。

そして、不正業者が正直に処理実績を報告することも有り得ないので、この案は論理的には有効に機能しないのが目に見えています。

2.廃棄物処理業者に対して、抜き打ちの立ち入り検査等により監視体制の強化を図るとともに、処理状況の徹底した情報公開を求めること。

※立入検査は通常抜き打ちで行うのが原則です。

その原則を守っていない自治体があるからこそ、改めて正式な対策として述べているのかもしれませんが、今までできていなかったことが、環境省に言われたからといって急にできるようになるとも思えません。

なお、筆者が接した経験のある地方自治体は、いずれも無通告で立入検査を行っているところばかりでした。

許可の更新等の申請を契機とした立入検査の場合は、日程調整をした上で行われますが、それは監視ではなく、許可申請書の審査という意味合いが強くなります。

唯一効果がありそうなのは、「処理状況の徹底した情報公開を求めること」かもしれません。

ただし、その場合でも、お役所的な形式のみにこだわる情報収集では、それに関わる人間の感覚を麻痺させるだけとなります。

マンネリ化した定型的な情報収集ではなく、要所を抑えた簡単な質問で、不正業者の矛盾を見抜くトレーニングが不可欠と思います。

3.排出事業者に対して、食品廃棄物を廃棄するに当たり、そのまま商品として転売できないような形で廃棄することを要請。

※「要請」という点に、この案の限界が現れています。

具体的な方法としては、壱番屋が公表していたように、「廃棄食品に生ごみを混ぜて搬出」したり、「包装を取り外して食品だけにしてから搬出」したりする方法が考えられます。

しかしながら、「生ごみを混ぜる」というルールは、多くの人の「もったいない」という美意識に反する方法に思えます。

廃棄する食品に「もったいない」と感じる必要はないのかもしれませんが、食品を作っている人に「生ごみと混ぜて捨てよ」と命じるのは、非常に不道徳な気がしてなりません。

人の規範意識や善性のみに依拠した一方的なルールを唱えるだけで万事がうまく行くと思いこむことを、「精神論」と言います。

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