リスクがクライシスに発展するきっかけ

組織において、個人が問題の存在を認識しながらも、それをリスクとして組織内で共有しなかったために、本来なら封じ込めが可能であったリスクが、制御困難なクライシスに発展することがよくあります。

今日ご紹介するのも、そんな事例の一つです。

2015年5月22日付 毎日新聞 奥州の中学校建設地産廃:用地取得で「不適切な処理」 市が全協で報告 /岩手

 奥州市の胆沢統合中学校の用地取得で不適切な事務があったとされる問題で、同市は20日の市議会全員協議会で、「庁内検証本部」(本部長、江口友之副市長)が「(一部事務で)不適切な事務処理があった」と報告した。

 報告では、取得前に現地の職員が「予定地にはさまざまなものが埋まっている、と聞いた」とする情報を庁舎内の職員に報告。しかし、報告を受けた職員は「何かが埋まっているかもしれないという程度で聞き取った」として、埋設物のリスクに注意を向けなかったと指摘した。

 さらに、土地に問題があっても市で対応するとの覚書を所有者と結んだことについて、「重要な情報が決裁権者に伝わっておらず、不適切な事務処理があったと認められる」とした。ただ、最終的には「市の行為に違法性はなかった」と結論づけた。

 同市は2012年、同市胆沢区南都田で中学校建設用地を取得したが、造成工事中に地中からコンクリートがらなどの廃棄物が見つかり、処理のための追加工事を余儀なくされた。取得の際、市と地権者との間で覚書が締結されていることが問題視され、議会側から説明を求める声が出ていた。

この事件の前日譚は、当ブログ 2014年11月20日付記事 「着工時に気づいても後の祭・・・」をご覧ください。

さて、このような問題に対処する場合、
「何かが埋まっているかもしれないという程度で聞き取」り、「埋設物のリスクに注意を向けなかった」職員の個人的責任として片付けるのは大変危険です。

もちろん、冷静で、責任感のある、組織への忠誠心も高い職員であったなら、廃棄物埋設の可能性を聞いた段階で適切に報告をしていた可能性が高いですが、

今回のようなクライシスに発展しかねないリスクに対処する上で、「職員の自発性」のみに期待し、組織としてリスク情報を吸い上げる仕組みを取らないというのも無責任と言えましょう。

これは、土地取引のみならず、安全衛生や処理状況確認(現地確認)にもあてはまる話ですね。

行政が行う立入検査にもあてはまる部分がありますが、
このような問題に対処していくためには、個人の自発性や注意力に期待するといった精神論ではなく、リスク情報をシステマチックに報告させる仕組みが不可欠です。

具体的には、土地購入を決める際の決裁文書に、「埋設物の存在の可能性」や「埋設物の種類」等のチェックシートの添付を義務付ける方法が考えられます。

他人事ではなく、他山の石として、他の組織の失敗事例を活用したいものです。

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コメント

  1. 千田義之 より:

    初めまして
    この件は聞いてましたが、ハッキリ言わせて貰うと売買契約自体が無効ではないかとおもいます。売り手が土地の瑕疵を契約後に判明した時は買い手に弁済するということ民法上の取り決めがあるからです。

  2. 尾上雅典 より:

    千田義之 様 コメントいただき、ありがとうございました。

    契約条件の詳細はわかりませんが、買主が「土地に何かが埋められている」ことを認識していたようですので、売買契約自体は有効に成立していたように思えます。

    奥州市も売主側の責任を挙げてはいませんので、やはり買主側に過失があったと考えていたのではないでしょうか。


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