完璧な(ハンズフリー)システムは存在し得るのか?

産業廃棄物管理票(マニフェスト)の構造的問題に触れた珍しい報道がありました。

2020年11月21日付 神奈川新聞 「全国で続く産廃マニフェスト改ざん 業者任せ、限界露呈

 産業廃棄物の汚泥を公共下水道に流していたとして起訴された横浜市の中間処理業者の実質的経営者らが、汚泥の処理工程を記した管理票(マニフェスト)に虚偽記載していた疑いでも摘発された。不法投棄の発覚を避ける狙いがあったとみられる。制度上、マニフェストの記載は業者任せで、内容の真偽を行政がチェックする機会はない。改ざん事件は全国で後を絶たず、業者の良識に支えられた制度の限界が改めて浮き彫りとなった。

記事の書き出しは、横浜市のとある中間処理業者(廃業済)が県警に逮捕された事件を受けての書き出しとなっています。

この業者、操業してすぐに施設が壊れたため、そこから約30年という長きにわたり、汚泥を公共下水に放流し続けていたという、杜撰、かつ大胆な不法投棄を続けていたようです。

すべての汚泥が下水放流(?)できていたわけではないため、その一部は別の産業廃棄物処理業者に再委託していたそうですが、その過程でマニフェストの虚偽交付を行っていたとのこと。

 比重のある汚泥は下水道に流すことができず、同社は処分を別の中間処理業者に委託。この時交付したマニフェストの排出者欄に架空の業者名を記していた疑いで、実質的経営者ら3人が18日に廃棄物処理法違反容疑で再逮捕された。同じ中間処理業者間で処分を依頼する不自然さを隠すためだったとみられる。

空マニフェストの交付や再委託を成立させるためには、「依頼者」と「受託者」の双方が必要であるため、必ず複数の業者による共謀が必要となります。

空マニフェストの運用に意図的に関与した業者については、逮捕されることが大半であるため、今回の逮捕事件はまだまだ方々に波及していきそうです。

さて、神奈川新聞は、事件の表層を紹介するだけにとどまらず、行政のチェック機能に関する根本的な問題にも少し切り込んでいます。

 市は5年ごとの許可更新時のほか、年に1回程度抜き打ちで、同社施設に立ち入り検査を実施。施設内の機器が図面通りに設置されているか確認したものの、稼働状況までは調査項目になく見ていなかった。県警の捜査で判明した機器の不具合は見過ごされ、結果的に不法投棄が疑われる状況も察知できなかった。

「年に1回程度抜き打ち」という立入頻度自体は、なかなか頑張っているレベルと言えますが、
施設内の機器が図面通りに設置されているか確認したものの、稼働状況までは調査項目になく見ていなかった。」点は、あってはならない「行政あるある」です(苦笑)。

これは「チェックシートの弊害」と呼ぶべきもので、
チェックシートを使うことで、「チェックの効率化」は図れるものの、「チェック対象に入っていない項目」はまったく審査されずに、非常に重大な問題が目の前で起きつつあっても、そこから目を背けさせるという弊害が非常に大きくなります。

当ブログ2020年11月9日付記事 「失敗の根本原因」で書きましたが、
「普通なら誰でも間違いに気が付くだろう」で済ませていると、問題が繰り返し起きることは避けられません。

「現場経験」、より正確に言うならば「現場で実際に動き、考えた経験」が無いと、チェックシートという紙切れに依存するしかありませんので、そうならないためには「実際に現場で主体的に行動してみる」しかないと断言できます。

神奈川新聞は、大手の出版メディアではめったに見られない、マニフェスト制度の根本的な問題点にも切り込んでいます。

  早大法学部の大塚直教授(環境法)によると、近年は電子マニフェストの利用率が5割超まで進展。電子マニフェストは、日本産業廃棄物処理振興センターが運営する情報処理センターで一括管理している。松本建設が使用していた紙マニフェストに比べて改ざんしにくく、行政が廃棄物の移動状況をつかみやすいことから、業者に対する抑止力となって作用することが期待されている。

さすがは環境法の泰斗である大塚先生。
電子マニフェストの特徴と弱点を簡潔に表現しています。

環境省が電子マニフェストの推進に努力している最大の理由は、「行政が廃棄物の移動状況をつかみやすい」ことに他なりません。

しかしながら、マニフェスト制度の根本的な問題は、「業者による改ざん」ではなく、「排出事業者の無関心」であると言わざるを得ません。

もちろん、改ざんを行う処理業者は非常に悪質ですが、中には、違法行為を正直にマニフェスト上で記載する例も非常に多く、これなども「現場経験」を積めば、すぐに異変に気付くことが可能なのです。

非常にわかりやすい事例として、懐かしの「ダイコー事件」での電子マニフェスト上の報告画面を再掲します。

「食品廃棄物から有価物(!?)を抜き取った量」として、「有価物拾集量」が正直に報告されています。

これは改ざんではなく、むしろ正直に「転売をしてま~す」と排出事業者に報告していることになります。

このような怖い報告には即時に対処する必要がありますが、電子マニフェストの報告を「単なる数字の羅列」としか思っていない排出事業者にとっては、ただの数字でしかありません。

その結果、食品事業者の大部分が震撼することになったわけですが、
「数字を数字としか見られない」状態は、「現場経験が欠如したまま、流れ作業的に仕事をこなしてしまった結果」であることは、当ブログ読者の賢明なる皆様には自明であると思います。

※今回のケーススタディ
・あなたの「役目」は何ですか?
・チェックシートやマニュアルに依存するのではなく、それらを道具として使いこなしていますか?

このエントリーを含むはてなブックマーク

タグ

トラックバック&コメント

コメントをどうぞ

このページの先頭へ