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盗難特定金属製物品処分防止法(案)が閣議決定される
警察庁は、金属ケーブル等の窃盗対策のため、2024年9月から2025年1月にかけて3回の「金属盗対策に関する検討会」を開催し、「法律による対応の必要性」等を指摘した「金属盗対策に関する検討会報告書」として、金属盗対策の方向性をまとめ上げました。
この検討会報告書で指摘された論点を踏まえた「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律案」が閣議決定され、2025年3月11日に国会に提出されました。
まず、規制対象となる「特定金属製物品」の定義は次のとおりです。
第2条
一 特定金属製物品 特定金属(銅その他犯罪の状況、当該金属の経済的価値その他の事情に鑑み、当該金属を使用して製造された物品の窃取を防止する必要性が高い金属として政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)を使用して製造された物品のうち、主として特定金属により構成されているものをいう。
定義の詳細は、法律制定後の政令での定義を待つ必要がありますが、「銅」すなわち「銅線」については、法律案の段階から「特定金属製物品」に該当することが明示されています。
上記の「特定金属製物品」を買い取る者を「特定金属くず買受業」と位置づけ、買取対象となる「特定金属くず」の詳細を次のように定義しています。
第2条
三 特定金属くず 主として特定金属により構成されている金属くず(物品を製造する過程において生ずるもの及び古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第2条第1項に規定する古物に該当するものを除く。)をいう。
と、「物品を製造する過程において生ずるもの」と「古物営業法上の「古物」に該当するもの」は対象外となります。
そのため、仮に銅線であったとしても、「物品を製造する過程で生じた物」である場合は、「盗難特定金属製物品処分防止法(案)」の対象とならないことになります。
いずれは、この規定の隙間を突く微妙な事件が起きるのかもしれませんが、それはまたその時の話ということですね。
警察庁が所管する法律(案)ですので、窃盗犯を直接的に規制する条文に目が留まりました。
第2条
五 指定金属切断工具 ケーブルカッター、ボルトクリッパーその他の特定金属を切断することができる工具であって、一般消費者が通常生活の用に供することが少ないと認められ、かつ、特定金属製物品の窃取の用に供されるおそれが大きいものとして政令で定めるものをいう。
工具を指定する必要性については、「検討会報告書」で
○ 金属盗に用いられる犯行用具の規制の必要性
・ 現在は、大きなケーブルカッターやボルトクリッパーが乗用車に積まれていても、警察が対処できないところ、これらの犯行用具について規制を設けた方が良い。
と指摘されていました。
その結果、法律案では、
第三章 指定金属切断工具の隠匿携帯の禁止
第15条 何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、指定金属切断工具を隠して携帯してはならない。
と、「指定金属切断工具を隠して携帯してはならない」と、明確に禁止されています。
隠してではなく、堂々とボルトクリッパーを持ち歩いている場合は、警察官による職務質問で、「工具の携帯が業務その他の正当な理由に基づくものなのか」を追及し、犯罪の抑止や着手済みの犯罪証拠を見つけるきっかけにできます。
今後は、電気工事業者以外の人間がそれらの工具を持ち歩いていると、かなり厳しめに警察官から質問という形の追及を受けることになります。
よほどのことがない限り、日常生活でケーブルカッター等を持ち歩く機会はほぼありませんので、妥当かつ効果的な規制と言えましょう。
これらの工具を隠匿携帯していた場合は、
第22条 第15条の規定に違反した者は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
とされています。
ちなみに「拘禁刑」は、新しい刑事罰というわけではなく、刑法改正に基づく従来の「懲役刑」と「禁錮刑」を「拘禁刑」に一本化したものになり、2025年6月から施行が始まります。
※参考 当ブログ2022年6月15日付記事 「コウキンの乱」
最後は、「特定金属くず買受業」の義務について
「特定金属くず買受業」を営む際には、「特定金属の買受けを行う営業所ごとに」都道府県公安委員会に届出を行う必要があります(第3条)。
届出後は、「営業所ごとに、公衆の見やすい場所に、その氏名又は名称、届出をした公安委員会の名称及び届出番号等を表示」しなければなりません(第5条)。
「特定金属くず買受業者」は名義貸しを禁止されます(第6条)。
「特定金属くず買受け業者」は、
買受けの相手方の本人特定事項として
- (相手方が自然人の場合)氏名、住居、生年月日
- (相手方が法人の場合)名称、本店又は主たる事務所の所在地
を確認することとされています(第7条)
※過去に買受けの相手方となったことがある者からの買受けを行う場合で、買受け代金の支払をその者の預金又は貯金の口座への振込みにより行うときその他の国家公安委員会規則で定める場合は、この限りでない。
そして、上記の「本人確認記録の作成」、「本人確認記録の買受け日から3年間保存」、「取引記録の作成」、「取引記録の買受け日から3年間保存」、「買受けた特定金属くずが盗難特定金属製物品に由来するものである疑いがあると認めたときは、直ちに、警察官にその旨を申告」等の義務も課されます(第8条から第10条)。
以上のように、廃棄物処理業者と排出事業者に直接的な影響を与える法律ではありませんが、金属くずの専ら業者で「特定金属くず買受け業者」に該当する場合は、新法の施行後に、公安委員会への届出が必要となり、買受け相手の本人確認及びその記録の保存義務が課されることになります。
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2025年3月17日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:盗難特定金属製物品処分防止法
廃棄物処理法施行規則等の改正(放流水の大腸菌数及び六価クロム化合物関連)
2025年3月3日付で、環境省から「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則の一部を改正する省令等の公布について」の発表がありました。
■ 経緯・背景
環境基本法に基づく水質汚濁に係る環境基準のうち、公共用水域及び地下水の水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準の項目である「六価クロム」については、新たな知見を踏まえ、令和3年10月に環境基準値が改正され、令和4年4月から適用されました。また、生活環境の保全に関する環境基準の項目である「大腸菌群数」については、簡便な大腸菌の培養技術が確立されたことを踏まえ、より的確にふん便汚染を捉えることができる指標である「大腸菌数」に見直しました。
こうした環境基準の見直し状況を踏まえ、し尿処理施設の維持管理の技術上の基準や一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場から排出される放流水の排水基準等を定めている以下の省令に関して、所要の改正を行いました。■ 改正の概要
(1) 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則の一部を改正する省令の改正
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則第4条第2項第10号及び第4条の5第2項第11号において定める、し尿処理施設の放流水に係る大腸菌群数の基準を大腸菌群数3,000 個/cm3から大腸菌数800コロニー形成単位/mLに改正することとしました。(2) 一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令の改正
一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令別表第1において定める基準のうち、一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の管理型最終処分場の放流水及び保有水等に係る六価クロム化合物の基準値を六価クロム0.5mg/Lから六価クロム0.2 mg/Lに、大腸菌群数の基準を大腸菌群数3,000 個/cm3から大腸菌数800コロニー形成単位/mLに改正することとしました。
同省令別表第2において定める基準のうち、廃棄物最終処分場の周縁地下水及び産業廃棄物の安定型最終処分場の浸透水に係る六価クロムの基準値を0.05 mg/Lから0.02 mg/Lに改正することとしました。■ 今後の予定(施行日)
・令和7年4月1日(大腸菌群数に係る改正)
・令和8年4月1日(六価クロム化合物及び六価クロムに係る改正)
廃棄物最終処分場の放流水に係る「大腸菌数」と「六価クロム」に関する規制基準の改正です。
「廃棄物最終処分場の設置者」だけに関係する改正ですので、それ以外の方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。
率直に申し上げると、
「大腸菌群数3,000 個/cm3」が「大腸菌数800コロニー形成単位/mL」になる影響を具体的に想像する知識はありませんが、
最終処分場放流水及び保有水に係る六価クロムの規制が厳しくなることだけは理解できました。
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2025年3月4日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:その他
産業廃棄物の許可で一般廃棄物は運べません
今回ご紹介する記事は、最初現代ビジネスのサイトに掲載された時点に読み、その時から「誤解を招く表現が多いな」という印象を持っておりました。
「知識不足の執筆者の単なる取材不足かな?」と思い、X(@onoemasanori)でその点を指摘したところ、私レベルの投稿としては、驚異的にバズりました(笑)。
当初はブログで取り上げるつもりはありませんでしたが、Yahoo!ニューストピックに掲載され、誤解をする人がさらに激増しそうな予感がしましたので、啓発の意味を込めてブログでも問題点を指摘しておきます。
知らなかったではすまされない…不法投棄、違法業者が増加中の「産業廃棄物処理事業者」の正しい選び方
記事タイトルの後半の「違法業者が増加中の産業廃棄物処理事業者」という表現に、偏見が感じられます。
記者自身には偏見の意識が無いのかもしれませんが、「産業廃棄物処理業者には犯罪者が多い」という誤った無意識の固定観念がありそうです。
「無意識に連想する」ところが一番厄介な問題でありまして、今回の記事がさらにその連想を強化助長し、それを読んだ人がさらにそれを周囲に拡散するという、負の連鎖スパイラルが現実に存在しています。
また、記事タイトルには「産業廃棄物処理事業者」とありますが、記事全体を読むと、どうやら「産業廃棄物処理委託」ではなく、「個人宅の不用品回収」という「一般廃棄物の処分受託」を前提とした文章であることがわかります。
ここが、この記事の一番の問題点です。
産業廃棄物処理委託に関する説明のパーツとしては、所々文意が成り立つ文章があるのですが、そもそもの論点が最初からズレているため、産業廃棄物処理委託基準に関する言及のすべてが無意味となっています。
その一例が、次の“産業廃棄物処理企業”に従事する方のコメント
「産業廃棄物収集運搬業許可とは、事業を的確に行うための知識・技術や事業経理的基礎や欠格条項に当てはまらないなど厳格な要件を満たした業者のみが都道府県から許可がもらえます。古物商許可と産業廃棄物収集運搬業許可の2つがあれば、中古品を有償で買い取ったり、不用品を無償で引き取ることが可能です」
「(個人宅の不用品回収に)許可が必要」という点はそのとおりですが、
「古物商許可」と「産業廃棄物収集運搬業許可」があれば、「個人宅の不用品回収」ができるわけではありません。
関係のない業許可を100個持っていたところで、「成らぬものは成らぬ」です。
「個人宅の不用品回収」に必要な許可は、「その場所の市町村長が出す一般廃棄物収集運搬業許可」だけです。
また、売れそうな中古品なのに、「売れないから」と騙して、無償で引き取ることはよくありますが、
「売れない不用品」を無償で引き取ってくれる、仏様のような企業は日本には存在しません。
他の売れそうな物品と合わせて、抱き合わせで不用品をセット回収しているだけの話です。
そして、売れる物品だけ持ち帰り、売れそうにないゴミは不法投棄、というお決まりのパターンになります。
次に、産業廃棄物処理業者の適正価格を知ることが大切である。
その業者のHPに3万5000円と表記してあっても鵜呑みにしていはいけない、そう高松さんは断言する。
このあたりから、記事の内容がかなり危なくなっていきます。
私は、まともな産業廃棄物処理業者のHPで、産業廃棄物の種類を問わず「3万5千円」と金額だけを訴求しているものを見たことがありません。
逆に、この手の「価格訴求だけ」をしているHPは、無許可の不用品回収業者のところでよく見ます。
「HPのトップページで低額の料金を提示して、結局、あとから追加料金をとる業者は少なくありません。目安の適正価格は1部屋で10万円、ゴミの量や廃棄処理で決まります」
「1部屋」という単位を挙げていることから、この業者が回収している物は、「産業廃棄物」ではなく「一般廃棄物」である疑いが濃厚となりました。
そうであれば、産業廃棄物収集運搬業許可しか所持していない企業が、なぜ一般廃棄物である個人宅の不用品回収をしているのか?という疑問が残ります。
可能性としては2つ考えられます。
1つは、「一般廃棄物収集運搬業許可を新規で取得することはほぼ不可能なので、似たような名称の産業廃棄物収集運搬業許可で誤魔化してしまえ」というもの。
もう1つは、「同じ『廃棄物』という名称が付いているから、産業廃棄物の許可で良いんじゃね?」という、法律の無知、あるいは誤解に基づくものです。
単なる憶測ですが、この記事の取材対象者は無邪気に注意点(?)を語っていることから、後者の立場に属するような気がします。
日本語としては「産業廃棄物」と「一般廃棄物」では取り扱いが全く異なりますので、メディアに文章を掲載する以上は、もっと慎重に言葉を選んでいただきたいものです。
現代ビジネスは講談社が運営するサイトのようですので、何らかの校閲を経た上で、文章の公開に臨んでいるのではないかと思いましたが、「紙の本」ではないので、専門の校閲担当者が介在していないのかもしれません。
結論としては、この記事は取材対象者の選定から不適切ですので、文章の修正だけでは修復不可能な内容となっています。
業者ではなく、市町村等の行政に取材をすべきテーマでした。
もっとも、市町村でも法律知識が怪しいところは多々ありますが。
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2025年2月25日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:news
軽すぎる行政処分の弊害
「行政処分」というものは、「重ければ重いほど良い」というものではありません。
同じ法律違反をした場合に、行政庁がある業者には重く、別の業者にはより軽い行政処分を科すような事態は、行政の公平性と中立性確保の観点からは許容できるものではありません。
逆に、「軽いほど良い」ものでも決してありません。
その理由は、「行政処分」とは、法律に則った操業を事業者に行わせるために、行政庁が許可業者に科す実質的なペナルティだからです。
「野外焼却」や「不法投棄」等の重大な廃棄物処理法違反に対し科される行政処分が「事業の全部停止10日間」だとしたら、「10日間だけ仕事ができなくなる程度なら、見つかるまでは不法投棄で儲けた方が得!」と考える不届き者が必ず現れることでしょう。
不相当に軽い行政処分は、行政の公平性と中立性を逸脱するもので、法治国家の観点からは著しく不適切と言わざるを得ません。
残念ながら、そのような不適切な行政処分実例が出現してしまいました。
2025年2月14日付 高知県発表 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律に係る行政処分について」
廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく産業廃棄物収集運搬業の業務停止処分を行ったので、情報提供をします。
内容
1 事業者(被処分者)の氏名又は名称(住所)
(転載略)2 許可の番号
(転載略) (産業廃棄物収集運搬業)3 処分の期間
廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の3第1号による産業廃棄物収集運搬業の事業の全部停止10日間
令和7年2月15日(土)から令和7年2月24日(月)まで4 処分の理由
(被処分者)は、高知市(略)に本店を置き、同場所を事業場として不要品回収業等を営むものであるが、令和6年5月1日から同年10月28日までの間、次の違反行為を行ったため。
高知市長等から一般廃棄物収集運搬業許可を受けず、不用品回収の名目で高知県内の一般住宅等から、反復継続して「廃プラスチック」、「木くず」、「繊維くず」等の一般廃棄物を前記事業場まで収集運搬して、作業代と称した運搬費を受領した。(一般廃棄物収集運搬業の無許可営業(法第7条第1項違反)に該当)5 根拠条文
廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の3第1号
産業廃棄物収集運搬業の許可業者が、高知市から一般廃棄物収集運搬業の許可を受けていないのに、高知市内で一般廃棄物収集運搬業の無許可営業をしていたことが発覚したため、高知県から「産業廃棄物収集運搬業の事業の全部停止10日間」という行政処分を受けたことになります。
一般廃棄物収集運搬業の無許可営業は、廃棄物処理法第25条の「5年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金、またはこの併科」という、廃棄物処理法で最も重い刑事罰の対象となる法律違反です。
「無許可営業」以外の廃棄物処理法第25条の適用対象としては、「不法投棄」や「野外焼却」等があり、すべて廃棄物処理法で定められた「最もやってはいけない犯罪」となります。
環境省は、平成23年3月15日付 環廃産発第110310002号「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の3等に係る法定受託事務に関する処理基準について」で、
「無許可営業」は行政処分メニューのトップに掲載し、「許可取消相当」という判断を大昔から示しています。
※ちなみに、上記の通知は、本来ならば2017年改正の際に引用する条文番号(現行法の第27条の2関連)を修正する必要がありましたが、なぜか未修正のまま、現在も平成23年時のままで「行政処分の指針(令和3年度版)」で引用されています。
もっとも、「行政処分の指針」その他の環境省通知は、「法令」ではありませんので、行政庁の判断を直接的に拘束するものではありません。
そのため、無許可営業へのペナルティが「事業の全部停止10日間」であったとしても、高知県が廃棄物処理法違反をしたことにはなりません。
しかしながら、「事業の全部停止10日間」とは、「日曜日と祝祭日を含めた10日間」ですので、実質的には「1週間と少しの間会社を休みにする」程度のペナルティであり、無許可営業という、業許可制度の根幹を無視した犯罪に科す罰としてふさわしいものではありません。
先述しましたが、「1週間会社を休みにするだけで禊が済む」のであれば、真面目に廃棄物処理法を守って事業を行っている大部分の処理業者が損をしていることになり、「こんなに軽いペナルティなのであれば、見つかるまではウチも違法処理をしないと損!」という、無意味なモラル破壊を引き起こす可能性すらあります。
行政処分というものは、重すぎてもいけず、軽すぎるともっといけないデリケートなものです。
法治国家の一翼を担う地方自治体としては、恣意的に法律運用をするのではなく、「一罰百戒」の意味を込めて、迅速、そして公正無比に行政処分を行うことが基本中の基本です。
関係者の猛省を促したいと思います。
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2025年2月17日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:行政処分
改善命令違反への行政の対抗策Vol.2「実際の選択結果」
一つ前の記事 「改善命令違反への行政の対抗策」を更新したその日に、早速続報のニュースが入りました。
2025年2月3日付 tbc東北放送 「「お金がないので今はできません」産業廃棄物処理会社『砂押プラリ』期限までに“感染性廃棄物”全体の2割しか処理しきれず 宮城・加美町」
「お金がないので今はできません」の一言に報道の核心が凝縮されています。
少し待てば資金調達できる見込みがあるのかどうかはわかりませんが、現実問題として、「資金が無い」ため「撤去作業を行えない」ことはわかります。
「今は」と、「将来的には善処する可能性を残している」ところを見ると、
不適正処理事案に対する一般的な先入観とは異なり、件の社長さんは根っからのアウトローなどではなく、極々フツーの経営者という印象を受けました。
とは言え、産業廃棄物処理業者として、感染性廃棄物の処分や、産業廃棄物管理票の運用方法に大きな不備があったことも事実です。
フツーの人が懲役刑付きの重罪となる法律違反を容易に起こしてしまうところが、廃棄物処理法の怖さでもあります。
マニフェストという言ってしまえば紙切れの不用意なミスで、社長のみならず、雇用されていた従業員及びその家族までが不幸になってしまいますので、当ブログ読者の皆様におかれましても、今一度、社内で廃棄物処理法違反が起きていないかをご確認いただけると幸いです。
さて、今回の本題の、宮城県の今後の対応方針は
(宮城)県は、今のところ刑事告発や更なる行政処分を下す予定はなく現場の監視と指導を続けていくということです。
前回の記事では、
- 「改善命令違反」として告発する
- 自主的な撤去を指導し続ける
- 新たな行政処分を科す
の3つの選択肢が考えられると書きました。
報道内容によると、「1」の刑事告発は採らず、当面の間は、「2」の「自主的な撤去を指導し続ける」ことをベースとしているように見えますが、
実際のところは、
ほかの産業廃棄物業者への委託については排出事業者さんが自主撤去されているという形で進んでいる
と担当課長が答えていることから、
「3」に近い「排出事業者への措置命令の可能性」を示唆しつつ、排出事業者の負担に基づく撤去要請を基本路線としているのでは?と、個人的には憶測しています。
以下は余談です。
上記の「排出事業者への撤去要請」については、委託基準違反をしていない排出事業者の場合は、従う義務は一切ありません。
しかしながら、実際には、「委託基準違反はしていないが、協力金の寄付を要請されたので、とりあえず何万円か寄付しておこう」という意思決定を行う企業が結構多くあります。
企業の自由意志に基づき、社会貢献(?)として、なにがしかの寄付を行うこと自体は問題ありませんが、
委託基準違反をしていないのであれば、ビタ一文支払うべき理由はありません。
逆に、「委託契約書の不備」や、今回の事件のように「マニフェストの記載不備を放置していた」場合は、委託基準違反や産業廃棄物管理票の運用義務違反をしていたことになり、廃棄物処理法第19条の5の措置命令の対象になる可能性が高くなります。
その場合は、自主的な撤去要請には真摯に対応し、排出事業者としての最低限の事後処理責任を果たさないと、措置命令が発出され、自治体HPで社名と代表者氏名が公開される可能性があります。
余談のまとめ
委託基準違反をしていた排出事業者は、撤去要請に応じた方が得策
委託基準違反をしていない排出事業者は、報告徴収に虚偽の報告をしていない限り、撤去要請に応じる義務無し
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2025年2月6日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:news
改善命令違反への行政の対抗策
当ブログ 2024年3月28日付記事 「あなたは”紙”を信じますか?」の続報が入りました。
感染性廃棄物の処分(滅菌)を行っていた業者が、滅菌処理以外の方法で処分をしたという理由で許可を取消された後、「事業場内に残った感染性廃棄物の保管容量を減らせ」という改善命令を受けていましたが、最終履行期限までに後片付けが間に合わなかったそうです。
2025年1月31日付 仙台放送 「医療廃棄物を“放置” 処分業の許可を取り消された加美町の業者 宮城県が設けた期限までに処理できず」
注射器など医療用の廃棄物を大量に保管し続けている宮城県加美町の業者が、県から1月31日までに廃棄物を減らすよう命じられたものの、処理しきれずにいることが分かりました。敷地内では未だに多くの廃棄物が放置されたままになっています。
(略)
県は去年3月、敷地内に保管され続けている約4900立方メートルの廃棄物を31日までに400立方メートルまで減らすよう命じる行政処分を出しました。しかし、県によりますと、23日の時点で、未だ3900立方メートルの廃棄物が残っていて、期限の31日までに処理が完了するめどは立っていないということです。
こうした産業廃棄物撤去に関する改善命令の場合、
命令に従って撤去される産業廃棄物の量は非常に少ない、あるいはゼロというケースが非常に多いため、「約1千立方メートル」は自主的に撤去されている点が意外でした。
どのような撤去及び処分を行ったかは報道されていませんが、放置されていた1千立方メートルの感染性廃棄物を適切に処分するコストは決して安くはありません。
もっとも、その業者には、最初から適切に感染性廃棄物を処分する義務があったわけですから、自主撤去の姿勢を「真面目」とか「善性の発露」等と評価することはできませんが。
業者が自主撤去した時期や期間はよくわかりませんが、最初の自主撤去以降、作業が断絶している状態なのであれば、その企業の資金が限界を迎えた可能性があります。
県は近く、改めて現地の状況を確認し、処理の方策について業者と話し合いを進めることにしています。
話し合いの結論は、「無い袖は振れない」しかないような気がしますが、
宮城県が取ることができる対応方針は次のようなものになります。
- 「改善命令違反」として告発する
- 自主的な撤去を指導し続ける
- 新たな行政処分を科す
「告発」は被処分者に対する最大のプレッシャーにはなりますが、告発によって、現状以上の廃棄物撤去が進むとは考えにくい状況です。
もちろん、改善命令違反が続く場合は、いつかは改善命令違反として告発すべき時期が必ずやってきますが、「罰金刑」程度で終わることがほとんどであり、それ以上の撤去は全く進まなくなりがちです。
「自主撤去を指導し続ける」は、改善命令を発出済みである現状では、ただの行政の不作為でしかありませんので、もっとも労力が要らない行動ではありますが、行政として積極的に取れない対策です。
となると、残りは「措置命令」等の新たな行政処分を科すこととなります。
手続き的には、被処分者に措置命令を発出する必要がありますが、先述したとおり、被処分者によるこれ以上の自主撤去が期待できない以上、「排出事業者」に「措置命令」を発出し、排出事業者に委託者としての責任を負わせるという手法も選択肢に入ってきそうです。
先行報道にあったとおり、
排出事業者に返ってきた産業廃棄物管理票の記載内容に明らかにおかしな点があった以上、法で定められた委託者としての責任を果たしておらず、「処分業者が勝手にやったこと」とは決して言えないからです。
ただし、排出事業者の場合、いきなり措置命令が発出されることはほぼ無く、事前に「排出事業者負担での自主撤去」や「撤去事業への資金協力」を要請されるのが通例となっており、その要請に協力すれば、「委託者の責任をなんとか果たした」とみなされ、措置命令の対象から外していただけるようになります。
以上の行政が取り得る3点の対抗手段を頭に入れておくと、今後の続報が10倍面白く聞けることと思います(笑)。
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2025年2月3日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:news
公務員=無謬のスーパーマン説の破綻
2025年1月26日付 読売新聞 「民家の庭に廃棄物269トン、流山市が3123万円投じ撤去…一般家庭から出された家具や家電などを無許可で収集」
千葉県流山市は2023年5~6月の行政代執行で、約3123万円を投じて同市美原の民家から廃棄物を撤去した。その後、市が土地所有者らから回収できたのは約27万円。大半は市民が税金を通じて負担した形になっている。市は支払いを求めているが、回収の見込みはたっていない。
(略)
撤去した一般廃棄物は269トンで、撤去料は約3084万円に上る。冷蔵庫や洗濯機などの家電は63台で、約39万円を費やした。
一般廃棄物の不法投棄であるため、千葉県ではなく、流山市が行政代執行を行ったものの、行為者から回収できた経費は代執行費の1パーセントにも満たない状況という、なかなかトホホな報道。
回収に掛かったコストは1トンあたり約11万4千円と、作業費込みではあるものの、適切に分別された廃棄物を処分する場合と比較するとかなり高く付いた模様。
※何もかもかごちゃ混ぜの不法投棄であるため、行政代執行費の相場としては、妥当な金額ではあります。
記事の指摘のとおり、流山市民の税金が廃棄物の不適正処理に伴う原状回復に充てられるという事態は褒められたものではありません。
当局としての流山市の責任が問われることは避けられませんが、昨今よく見られる「○○市職員は仕事しろ」等の公務員個人を批判することが適切かどうか?
筆者自身は、「個々の公務員を批判すれば済むという問題ではない」と考えています。
その理由は、廃棄物の不適正処理対策は、その担当者になったからといって、いきなり完璧な仕事ができるわけではないからです。
書類の受付等の単純な業務であれば、大部分の公務員の人は、短期間でほぼ完璧な水準の仕事をこなせるものと思います。
しかし、廃棄物の不適正処理対策となると、
・「廃棄物処理法の正確な理解」のみならず
・「実行者に対処するための対人コミュニケーションスキル」と「胆力」
・役所内の意思決定を迅速に進めるための「段取り」と「事務処理能力」
・刑法その他の概括的な理解
・行政手続法の正確な運用
・廃棄物処理法に基づく行政処分手続き etc
およそ、市役所職員にとっては、普通なら必要とされない特殊(?)スキルをすべて身につけている必要があります。
特に問題となるのが、「実行者に対処するための対人コミュニケーションスキル」と「胆力」で、本を読んだり、研修を受けたりするだけで一朝一夕に身につくものではない資質です。
その人の持って生まれた志向性が根本的に重要であり、「サラリーマン金太郎」のような特殊な人材でもない限り、それなりの場数を踏まないと「胆力」と呼べるまでの精神状態に至ることはできません。
「それなりの場数を踏む」ためには、数年以上の職務経験を積むことが不可欠ですが、近時は行政機関も人手不足であるため、20年前は数人で担っていた作業を、たった一人でこなすというワンオペやマルチタスクが当然となり、一人の人間に同一の職務を担当させ続ける余裕が無く、3年程度で人事異動することが通例となっています。
言わば、日本の市町村の大部分(都道府県を含めても良いかもしれない)の不適正処理対策は、個々の職員のやる気や能力といった、有るか無いか分からない曖昧模糊なリソースに依存していることになります。
現状では、多くの市町村で問題が起きているわけではありませんが、それはたまたま管内で不適正処理が起きていないだけであり、一度それが起きてしまうと、制御不能な状態へとすぐに悪化する構造にあります。
さて、ではどうすべきかという話になりますが、
余剰人員が無い以上、現有戦力で最大限の効果を発揮するためには、ある程度の対処手順と対処方針を事前に定めておくことが不可欠です。
「対応マニュアル」や「指導方針」等の名称で、何らかの方針を定めている自治体も多いかと思いますが、実体験に基づかないマニュアルは実際には役立たないことがほとんどです。
大事なことは、マニュアルのブラッシュアップを常に続け、進化させることです。
事態の悪化にうまく対処できなかったという経験は無駄ではなく、その反省を次の機会に活かせるように、組織内で新たな対策を共有する契機としなければなりません。
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2025年1月27日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:news
愛知労働局が建設廃棄物の不適正保管を行った業者を書類送検
2025年1月16日付 NHK 「アスベスト含む廃棄物放置などの疑いで書類送検 愛知労働局」
愛知県一宮市で健康被害のおそれがあるアスベストを含む廃棄物を、飛散を防ぐ対策を取らずに放置したなどとして、愛知労働局は名古屋市の産業廃棄物収集運搬会社とその社長を労働安全衛生法違反の疑いで16日に書類送検しました。
労働局が産業廃棄物の不適正保管に関与した業者を書類送検するという、極めて珍しい報道です。
通常は、今回の報道対象のような建設廃棄物の不適正保管の場合は、廃棄物行政が警察と連携をし、警察が事件化するのが一般的ですが、労働局としては、アスベスト(石綿)が絡む事件だけに「これ以上の遅延は許されない!」という危機感があったものと思われます。
2025年1月16日付 愛知労働局発表 「労働安全衛生法違反の疑いで書類送検」
3.被疑内容
被疑者(略)は、(中略)産業廃棄物の収集運搬業を営んでいたものであるが、同センターにおいて、その重量の0.1パーセントを超えて石綿を含有する疑いのある物(以下「石綿含有物」という。)に関する以下1~3の労働安全衛生法違反の疑いが認められたもの。
1. 令和5年8月10 日以降、石綿含有物を、石綿等の粉じんが発散するおそれがないように、堅固な容器を使用し、又は確実な包装をすることなく貯蔵した。(労働安全衛生法第22条第1号、石綿障害予防規則第32条第1項)
2. 令和5年8月24日、石綿含有物を労働者に重機で破砕させるにあたり、労働者に石綿粉じん用の呼吸用保護具を使用させなかった。(労働安全衛生法第22条第1号、石綿障害予防規則第14条第1項)
3.令和5年10月12日から令和5年12月18日の間に、石綿含有物を取引業者へ譲渡した。(労働安全衛生法第55条、労働安全衛生法施行令第16条)
上記の「2」は、たとえ呼吸用保護具を使用させていたとしても、積替え保管業者が重機で石綿含有産業廃棄物を破砕を行うことは廃棄物処理法違反となります。
上記の「3」は、廃棄物処理法に照らすと、(排出事業者への無断)再委託に該当しそうです。
愛知労働局によりますと、この会社は、一宮市千秋町の屋外施設でおととし8月以降、健康被害のおそれのあるアスベストを含む廃棄物を、飛散を防ぐ対策を取らずに放置したほか、ほかの業者に譲り渡したなどとして、労働安全衛生法違反の疑いがもたれています。
この施設では現在も、アスベストを含む廃棄物が野ざらしの状態で放置されています。
「おととし8月以降」とあるので、これまで少なくとも2年間は不適正保管の状態が放置されていたようです。
今後、2年間におよぶ行政庁の不作為が問題視されるかもしれません。
愛知労働局監督課の下田隆貴課長は会見で、「アスベストを含む廃棄物は、直ちに粉じんが飛散するおそれは少ないが、長期的に見れば周辺住民への影響も否定できない。撤去など今後の対応については一宮市と連携をとっていきたい」と述べました。
筆者は大阪の人間ですので、「なぜ愛知県ではなく、一宮市?」と疑問に思ってしまいましたが、2021年4月1日から、一宮市は中核市になっていたそうです。
ということは、今回の建設廃棄物の不適正保管は、一宮市が中核市になった2021年以降の事案ですので、行政として一宮市に監督責任があったことになります。
公文書ではなく、口頭での取材対応のせいかと思いますが、下記報道における一宮市のコメントには不適切な部分があります。
一宮市は「現時点でアスベストの飛散は確認されていないので、まずは行政指導を行って会社に対応を求めている段階だ。今後も監視を続ける中で、風化などでアスベストの飛散のおそれが認められれば、カバーをかけるなど行政代執行による対応を検討していきたい」としています。
産業廃棄物の再委託が判明しており、壁の高さを超えた状態(のように映像では見えた)の不適正保管が続いている現状では、行政指導を何度も繰り返すことは無意味です。
少なくとも、石綿含有産業廃棄物の存在を当局として認知しているのであれば、最低でも、廃棄物処理法どおりの石綿含有産業廃棄物の保管基準を順守させるために「改善命令」を発出すべき状況です。
行為者が改善命令に従わない場合は、改善命令違反という事実に基づき、改めて警察が立件することが可能になりますので、業者側にも大きなプレッシャーになります。
司法警察職員である労働基準監督官とは異なり、産業廃棄物所轄行政庁の担当官には犯罪捜査や刑事事件として立件する権限はありませんが、廃棄物処理法の枠内で「できること」「やらなければならないこと」はたくさんあります。
地方自治体職員の皆様には、愛知労働局の対応スピードを見習い、自らに課された職責を迅速に果たしていただくことを期待しています。
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2025年1月20日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:news
2024年12月分の「廃棄物実務クエスト」への寄稿記事
当ブログとは別に、北海道の橋本先生と一緒に運営しているサイト「廃棄物実務クエスト」にも2週に1回の頻度で産業廃棄物実務に関する記事を投稿しております。
短文に見えますが、2人ともかなりの執筆時間を掛けて執筆していますので、当ブログでも更新状況をお知らせさせていただきます。
2024年12月(※これ以前も投稿しており、記事としては2024年6月以降の蓄積があります)分の尾上の寄稿記事を新しい順に掲載
・2024年12月27日 「産業廃棄物管理票(マニフェスト)の照合確認日が空欄のままだと廃棄物処理法違反となる?」
Q:産業廃棄物管理票(マニフェスト)の照合確認日が空欄のままだと廃棄物処理法違反となる?
A:産業廃棄物管理票(マニフェスト)の「照合確認をした日付」は、マニフェストの法定記載事項ではないため、仮に空欄であったとしても、廃棄物処理法違反にはなりません。
・2024年12月12日 「行政職員の立入検査を拒んだ場合でも、暴力行為に訴えなければ刑事罰の対象にはならない?」
Q:行政職員の立入検査を拒んだ場合でも、暴力行為に訴えなければ刑事罰の対象にはならない?
A:暴力行為の有無とは関係なく、廃棄物処理法第19条に基づく行政機関の立入検査を拒否した場合は、「30万円以下の罰金」の適用対象となります。
橋本先生の寄稿記事
・2024年12月20日 「管理型最終処分場には、全ての産業廃棄物を埋め立てることができる?」
Q:管理型最終処分場には、全ての産業廃棄物を埋め立てることができる?
A:✕、一部ダメな廃棄物がある!
・2024年12月6日 「「廃棄物」の定義は、ごみ等の汚物または不要物であって固形状、液状、気体状のものである?」
Q:「廃棄物」の定義は、ごみ等の汚物または不要物であって固形状、液状、気体状のものである?
A:✕、「気体状のもの」は廃棄物処理法では、「廃棄物」として定義されていません。
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2025年1月16日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:活動記録
廃棄物の野外焼却は犯罪です
青森県大鰐(おおわに)町というと、「大鰐温泉もやし」で有名です。
大鰐町役場 「大鰐温泉もやし」 より文章と画像を転載
青森県の中南地域に位置する大鰐町には、古くから伝わる幻の冬野菜「大鰐温泉もやし」があります。
温泉熱と温泉水のみを用いる温泉の町ならではの独特の栽培方法により、およそ350年以上前から栽培されてきた津軽伝統野菜の一つで、津軽三代藩主・信義公が大鰐で湯治する際は必ず献上したとされております。
秘伝の大鰐温泉もやしは、 独特の芳香とシャキシャキとした歯触り、味の良さ、品質の高さで人気が高い大鰐町自慢の味です。
大鰐温泉もやしには、「豆もやし」と「そばもやし」の二種類があります。
豆の種類は 、先人が選び伝えてきた地域在来種で、豆もやしは 「小八豆(こはちまめ)」 という大豆の品種です。他の品種では美味しいもやしになりません。「小八豆」は門外不出です。
そばもやしは、そばの品種を使用しています。
栽培の秘訣は、温泉もやしの名の通り「温泉」が栽培過程でふんだんに使用されているところにあります。
温泉の熱だけで地温を高めて栽培する土耕栽培で、栽培はもちろん洗浄・仕上げに至るまで水道水を一切使わず、温泉水のみを使用して育てます。全行程一週間ほどで収穫となる大鰐温泉もやしの品質の良し悪しは種を蒔いてから4日後の成長で決まるため、土床の温度調節には熟練を要します。
大鰐温泉もやしは、「ワラ」で束ねているのが目印です。
昔と変わらず手作業で行い、伝統を受け継いでいます。
昨年6月、仕事がてらに東北地方を電車でほぼ1周した際、JR奥羽本線の「大鰐温泉駅」を通過した次の日、「大鰐町で製材所が木くずの野外焼却で失火をしたため、付近一帯の住居に引火して大火事になった」というニュースに接しました。
たまたま前日に大鰐温泉駅で電車が停車待ちとなったため、駅付近の様子をじっくりと見ることができましたので、「田畑のど真ん中というわけではない場所でなぜ野外焼却?」と大いに疑問を感じたものですが、あろうことか、その製材所は日常的に木くずの野外焼却を行っていたようです。
2025年1月7日付 NHK 「大鰐町の大規模火災 火元の製材所と役員ら書類送検」
警察の捜査の結果、製材所が廃棄物処理の許可を得ていなかったにもかかわらず従業員がスギを加工したあとの皮、およそ11キロをドラム缶で焼却し、その場を離れたすきに火の粉が近くの木材に燃え移った可能性が高いことが分かったということです。
このため警察は7日、法人としての製材所と56歳の代表役員、それに59歳の従業員を廃棄物処理法違反と重過失失火の疑いで書類送検しました。
警察の調べに対し代表役員は「いつも焼却処分をしていた。火事になるかもしれないという認識はあった」と容疑を認めているということです。
報道では、廃棄物処理法の「野外焼却」と、刑法の「重過失失火罪」の2つの容疑で書類送検されたとあります。
「野外焼却」の場合は、「5年以下の懲役、もしくは1千万円以下の罰金、またはこの併科」の対象となり、
「重過失失火」の場合は、「3年以下の禁錮(2025年6月1日以降は拘禁刑)または150万円以下の罰金」の対象となります。
「重過失失火罪」よりも「野外焼却」の方が重い罰であることが、なかなかの衝撃です。
現在は、「廃棄物の野外焼却」は直罰(ちょくばつ)の対象であるため、行政の改善命令等を経ることなく、すぐさま逮捕される犯罪行為です。
ちなみに、20世紀においては、「野外焼却」は直罰の対象ではなかったため、行政の改善命令を経た後でないと、警察が逮捕できないという状況があったため、野外焼却を取り締まることが困難でした。
その反省もあって、2000年の廃棄物処理法改正で、野外焼却は直罰の対象になったわけです。
さて、このように厳罰で処される可能性の高い野外焼却については、すぐに苦情や通報の対象となり、今回の事件が起きた住居密集地の場合、煙が上がった段階で保健所や警察署に通報が行くことが多いように思います。
しかしながら、行為者は「いつも焼却処分をしていた。火事になるかもしれないという認識はあった」と、長年このような野外焼却を続けていたようですので、近隣の関係者の間でトラブルになっていた様子がうかがえません。
野外焼却が直罰の対象である以上、かくも長くの間野外焼却を放置し続けた責任は、行政と警察の双方にあると言わざるを得ませんが、苦情や通報が寄せられていなかったのであれば、それらの機関が管轄エリアをあまねくカバーし続けることは物理的に不可能であるため、盲点となっていた可能性もあります。
いずれにせよ、失火で我が家まで燃やされてしまっては割に合いませんので、「野外焼却は犯罪行為なので、見かけたらすぐ通報」を日本の常識としたいところです。
ただし、「農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却」等の違法とはならない除外規定がありますので、それらに該当しない野外焼却が犯罪となります。
※参考 当ブログ 2013年12月13日付記事 「野外焼却禁止の除外規定」
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2025年1月14日 | コメント/トラックバック(0) |
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