大同特殊鋼、廃棄物処理法違反で強制捜査を受ける

9月11日(金)付で当ブログのアクセス数が急増したので理由を調べると、アクセス数の大半が、大同特殊鋼の委託基準違反事件に関する記事でした。

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当ブログへのアクセスが急増した背景には、
同日付の、「有害スラグ:大同特殊鋼に強制捜査 廃棄物処理法違反容疑」(毎日新聞)というニュースの存在があります。

 大手鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)から出た鉄鋼スラグに環境基準を超える有害物質が含まれていた問題で、群馬県警は11日、同社の名古屋、東京両本社など関係先を廃棄物処理法違反容疑で家宅捜索した。群馬県は同日、大同などを同容疑で7日に刑事告発したと発表。鉄鋼スラグによる環境汚染に対する強制捜査は初めてで、有害な廃棄物を「建設資材」として販売した実態解明が進められる。

 スラグは鉄精製時に生じる副産物で、有害物質が含まれていなければ再生利用できる。関係者によると、大同は2009〜14年ごろ、渋川工場から排出されたスラグを建設資材として渋川市の建設会社に販売する際、販売額以上の金額を「販売管理費」名目で支払う「逆有償取引」をしていた。スラグには環境基準を超える有害物質「フッ素」が含まれていると知りながら、大同は出荷。こうした取引は建設資材を装った廃棄物処理に当たるとして、県は廃棄物処理に必要な許可を受けていない大同と建設会社に廃棄物処理法違反の疑いがあるとして7日付で刑事告発した。

概ねの事件の経緯は上記の毎日新聞で書かれているとおりですが、
事件の発端から追った方が理解が進むと思いますので、近頃流行の「まとめサイト」風にまとめてみました。

そもそもの発端

製鋼後に発生するスラグを建築資材として売却していた大同特殊鋼に、「逆有償取引」をしていた疑いが発生したため、2014年1月27日付で、群馬県が同社渋川工場に立入検査を行う。

2014年1月28日付毎日新聞より抜粋

 東証1部上場の鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)が、渋川工場(群馬県渋川市)から出た有害なフッ素や六価クロムを含む「鉄鋼スラグ」を再生資材として業者に販売する際、販売額より高い費用を払っていたことが分かった。高額な処分費用を免れるため、「引き取り料」として支払っていたとみられる。こうした取引は「逆有償取引」と言われ、廃棄物処理法の適用を受ける。群馬県は27日、今回の取引について同法違反の疑いがあるとして同社を立ち入り検査した。

 同社のスラグを砂利として使った渋川市内11カ所からは環境基準を超えるフッ素などが検出されている。

毎日新聞が入手した契約書によると、大同は2009年7月、大同の子会社を通じて同市内の道路用砕石会社にスラグを1トン100円で販売する一方、砕石会社に対し「販売管理費」として1トン250円以上(出荷量に応じて変動)を支払う契約を結んだ。

販売管理費は12年6月の契約更新でなくなったが、代わりに、砕石会社がスラグ入り道路資材を建設会社に販売する際、工事現場までの輸送費を大同が肩代わりするほか、資材の在庫置き場の賃料や事務手数料などとしてスラグ代金(1トン500円)より高い費用を大同が負担するようになった。同工場では年間約2万トンのスラグが生じる。

大同は契約書の内容を認め、「販売代金より製造、運搬のコストが高くなる場合がある」としている。砕石会社の社長は「うちは大同の指示で動いているだけ。リスクを抱えている以上、大同の負担は当然のこと」と話した。

※当ブログ 2014年1月28日付記事「売ったはずのスラグからフッ素等が流出

事件は衆議院予算委員会にまで飛び火

2014年2月19日付 毎日新聞より抜粋

スラグ有害物質検出:群馬の工事45カ所で大同特殊鋼製

 大手鉄鋼メーカー、大同特殊鋼(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)から出た鉄鋼スラグで環境基準を超す有害物質が検出されるなどした問題で、太田昭宏国土交通相は19日の衆院予算委員会で、2008年度以降、群馬県内の国道など45カ所の工事で、大同製のスラグが使用されていたことを明らかにした。

 答弁などによると、45カ所のうち、前橋市の国道17号など道路工事24カ所では、アスファルトの下に敷く下層路盤材として利用。このうち、4カ所は六価クロムやフッ素などの有害物質が検知されなかったことを示す品質証明書が添付されていなかったという。

 また、茂木敏充経済産業相は、販売額より高い費用を引き取り手に支払って高額な処分費用を免れる「逆有償取引」をしていたとして、大同に対し、聞き取り調査をし、再発防止を指導したことを明らかにした。答弁によると、逆有償取引が行われたのは09年7月〜12年6月で、茂木経産相は「誠に遺憾」と話した

鉄鋼スラグ協会は製品管理ガイドラインを改定

その後、業界団体である「鉄鋼スラグ協会」が、スラグを建築資材として運用するためのチェック基準その他を改定しました。

改定後の検査方法にしても、技術的に高度な水準が要求されるわけではなく、どれも基礎的な検査手法に見えます。

最初からその方法を取っていれば容易に事件の発生を防げたはずですが、やはり「スラグから有害物質が溶出することはない」という思い込みが官民ともに根強かったようです。

2015年1月14日付 毎日新聞より抜粋

鉄鋼スラグ:製品管理のガイドライン改正

 八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の移転代替地などで有害物質を含む建設資材「鉄鋼スラグ」が使われていた問題で、大手鉄鋼メーカーなどでつくる「鉄鋼スラグ協会」は14日、再発防止のため製品管理に関するガイドラインを改正し公表した。同協会は「会員会社が製造した鉄鋼スラグ製品の品質・販売管理に重大な不備があり、環境基準を上回る化学物質が検出され、鉄鋼スラグへの信頼をゆるがしかねない事案が発生した」と改正理由を説明している。

 今回の問題では大手鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)が渋川市の建設会社に有害スラグとみられる資材を販売した際、販売額より多い費用を販売管理費などの名目で支払う「逆有償取引」と呼ばれる手法を取っていたことが明らかになっている。このため改正ガイドラインでは「販売代金を上回る金品の支払いは逆有償状態であると判断されるおそれがある。販売先に対し、名目を問わず販売代金以上の金品を支払ってはならない」と明記した。

 また「特殊鋼電炉の会員会社については、フッ素と六価クロムの発生源(の化学物質)を多量、頻繁に使用することから、積み付け山(製品を山積みした塊)ごとの検査を義務づけ、検査未了の山からは出荷しないこと」も記載。検査自体も年1回から月1回に改め、有害物質の拡散を防ぐとした。

 さらに、大同製のスラグは取引先の建設会社により天然砕石に混合され出荷されていたことから、改正では「混合前のスラグ単体での検査を義務づけ、この段階で基準値を超えたスラグの混合は認めない」とした。

 同協会は「大幅な改正で鉄鋼スラグへの信頼を積み上げたい」としている。

 スラグは鉄精製時に出る副産物でそのままでは産業廃棄物だが、リサイクル製品としての利用が認められている。廃棄物として処分するには多額の費用が掛かるが、逆有償取引ならより安価で引き取ってもらえることから、「リサイクル偽装」の温床とされてきた。

最終段階:群馬県が刑事告発の動きを見せ始める

2015年7月下旬に群馬県が刑事告発の方針を示しましたが、その後告発内容の詳細を詰めるのに1月ほど掛かったようです。

事件発覚から約19カ月を経ての強制捜査ですので、その間大同特殊鋼の名前が報道されるたびに、同社の従業員の方の方も大いに不安になったようです。

現時点では単なる予想にしか過ぎませんが、今回の件で大同特殊鋼が倒産するようなことは無さそうです。

多くの従業員の方にとっては朗報と言えるでしょう。

しかしながら、スラグのリサイクル偽装に携わった人については、逮捕を免れないかもしれません。

また、スラグを建築資材として施工した現場のうち、土壌などから有害物質が検出されたところについては、大同特殊鋼の負担においてスラグを撤去しなければならなくなると思われます。

そうなると、「違法行為で会社の利益に損害を与えた」という理由で、株主から同社の取締役に対し「株主代表訴訟」が提起される可能性もあります。

上場企業であるため、撤去費用等の金銭的リスクにはなんとか対処できそうですが、
株主代表訴訟は取締役個人に対して提起されるものですので、経営陣は戦々恐々としているものと思われます。

上場企業の役員が廃棄物処理法違反で逮捕されることはほとんど有り得ませんが、組織の規模が大きい分だけ、株主代表訴訟で背負わされる個人的債務の額も大きくなります。

やはり、企業で働く人すべてが、廃棄物処理法の概要を知っておく必要がありますね。

2015年7月27日付 毎日新聞より抜粋

大同特殊鋼:有害スラグ、強制捜査へ 不正処理委託の疑い

 大手鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)の群馬県渋川市の工場から出た鉄鋼スラグに環境基準を超える有害物質が含まれていた問題で、群馬県警が近く廃棄物処理法違反容疑で強制捜査に乗り出す方針を固めたことが捜査関係者への取材で分かった。同社を巡っては、高額な処分費を避けるため、事実上の引き取り料を支払ってスラグを建築資材として販売する「逆有償取引」も判明しており、県警は実態解明を進めるとみられる。

 群馬県などによると、大同は2009〜12年ごろ、渋川市の建設会社にスラグを販売する際、受取額以上の金額を「販売管理費」名目で支払っていた。環境基準を超えるフッ素を含んだ状態で出荷しており、さらに逆有償取引をしていることから、事実上の廃棄物処理に当たり、同法の規制対象となる。

 スラグは鉄精製時に出る副産物で、さまざまな化学物質が残存することがある。大同は、建設会社が処理資格を持っていないと知りながら処理委託していた疑いがあり、県が近く同法違反容疑で刑事告訴、県警が家宅捜索に着手する見通し。

 逆有償取引は、買い取る側が購入分だけ逆に収入が増えるため適正使途がないのに取引を続ける可能性があり、産廃が野積みされる温床と指摘される。スラグを産廃として処分すると費用がかさむため、県警は大同側が有害性を認識しながら取引を続けた可能性が高いとみて調べる。

 この問題を巡っては同県の八ッ場ダム建設地から立ち退いた住民の移転代替地や、国道17号バイパスに大同の有害スラグが混じった建設資材が使われていたことが、毎日新聞の調べで判明。毒性の強い六価クロムも検出されている。

※当ブログ 2014年1月28日付記事「大同特殊鋼のスラグ問題が刑事事件に

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