そして皆不幸になった

東京新聞による「埼玉県彩の国資源循環工場での不法投棄事件のその後」報道がまだ続いています。

2017年2月6日付 東京新聞 「産廃不法投棄の業者不処分問題 元従業員「廃業、県から言われた」と証言

 県が設置した産業廃棄物の総合リサイクル施設「彩の国資源循環工場」(寄居町)で、不法投棄をした産廃業者「埼玉環境テック」が処分されず、八潮市の建設会社「豊田建設」が事業を承継した問題で、テック社社長の夫が当時、同社親会社の従業員に、「テック社は県から、(廃業届を出して)自分たちで中間処分業の許可を返上しなさいと言われた」「温情で県が許してくれた」などと話していたことが、分かった。元従業員が本紙に証言した。 

 県はこれまで、テック社の許可取り消し処分をしなかった理由の一つとして、テック社が廃業届を出し、同社の中間処分業の許可が消滅したため、「処分の対象ではなくなった」(田中淑子産業廃棄物指導課長)としてきた。

 しかし、今回の証言で、テック社の処分を回避して豊田建設に事業を承継できるよう、県が廃業を促していた可能性が浮上した。

報道のとおりだとすると、行政としては不適切な対応と言えますが、「本当にそんなことを行政が言うかなあ?」と疑問に思う箇所があります。

それが下記の部分

 元従業員らによると、不法投棄の発覚から約二カ月後の二〇一六年一月、テック社親会社の社長が女性から別の男性に交代した。テック社に関わっていた女性社長の夫は、親会社従業員らに対して社長交代の経緯について説明。

 テック社の不法投棄にふれた上で、「県から(処分されれば)傷がついてしまうので、自分たちで業の許可を返上しなさいと言われた」「三十年間、産廃事業をやってきた社長への温情で県が許してくれた」という趣旨の話をしたという。

 テック社が不法投棄で処分を受けた場合、同社が持つ中間処分業許可と施設設置許可が取り消されるだけでなく、同社の親会社の持つ産廃関連の許可も取り消され、女性社長らは五年間、産廃処理業に関われなくなる。

 さらに関係者の話では、不法投棄発覚以前から、テック社は豊田建設への事業承継を考えており、許可取り消しとなれば、この取引も成立しなくなる恐れがあった。一方で、廃業届を出せば、中間処分業許可はなくなるが、施設設置許可だけは残るため、豊田建設への施設の譲渡も可能になる。こうした背景が「県の温情」という説明につながったとみられる。

施設設置許可を温存した理由については、「「自主廃業」選択の理由」で最初から申し上げていたとおりですが、業者が自発的にその手段を思いついたのか、それとも埼玉県が親身にアドバイスしたのかが問題となります。

別に、行政が親身にアドバイスすること自体は違法ではありませんが、業者に対しては公平な態度で接することが求められる行政としては、1998年にクリントン大統領(当時)が使った“不適切な関係”に近い親密性とも言えます。

一番有り得ない内容としては、赤字で強調した「30年の操業に対する県の温情云々」。

こんな内容のことを、埼玉県が言うはずはありません(笑)。

操業期間の長さで行政処分を緩める必要性はまったくありませんので、社長関係者(?)の話を聞いた人の誤解と思われます。

もっとも、昨日の記事でも触れましたが、191トンもの廃棄物を不法投棄していたのならば、その時点で許可取消をするのが通常の行政処分です。

それをせずに、施設の設置許可を温存するように埼玉県が仕向けた理由は、埼玉県の肝煎りで作った「彩の国資源循環工場」での不祥事案件にしたくなかった、という思惑は確実にあったと思われます。

もちろん、そう考えること自体が違法ではなく、「どちらかというと不適切」という微妙な立ち位置となります。

埼玉県を責めるべき点としては、「不祥事の発覚を恐れるあまりに、財務基盤がぜい弱な企業に不法投棄企業の事業譲渡を認めたこと」となりましょうか。

埼玉県としては、承継会社がつつがなく「彩の国資源循環工場」で操業を続けてくれることを希望していたものと思われますが、肝心の承継会社が、昨日付で再度の資金ショートを迎えたようです。

2017年2月6日付 東京商工リサーチ TSR速報

 土木、建築、舗装工事を目的に設立され、平成21年には居酒屋事業も手掛けるようになった。長年、土木工事業者として、埼玉県や八潮市の公共工事を主体として請け負ってきた。東日本大震災後は福島県でボランティア活動を始め、福島県や岩手県の地元業者とともに復興事業に従事してきた。ここ数年、除染作業などを受注したことで売上高は大幅に増加。
 また、28年2月には埼玉環境テック(株)(TSR企業コード:314027289、法人番号:2030001087627、埼玉県寄居町)から「彩の国資源循環工場」内で運営していた建設廃材リサイクルプラントを継承し、同年5月に産廃中間処分業許可を取得したうえで廃棄物リサイクル事業を開始。28年5月期にはピークとなる売上高44億5758万円をあげていた。
 しかし、その後の行政の立ち入り検査により、同施設の保管基準を上回る量の産廃を受け入れていたことが判明するなど施設の要項に反していたことを指摘された。29年に入り施設での操業を中止したことで急激に業況が悪化し、今回の事態となった。

倒産記事では、埼玉県が行政指導をしたために事業が行き詰ったかのように書いてありますが、実態はそうではないと思います(笑)。

好き勝手に想像を書くと「名誉棄損」になりますので、事実のみを指摘しておくと、
同社は平成28年5月に中間処理業の許可を取得したところですので、中間処理事業開始による平成28年5月決算への影響はほぼ無いと考えられます。

また、許可取得後半年で、事実上の操業停止状態に陥っていますので、中間処理事業を承継した時点から既に財務状況はかなり悪化していたはずです。

自社の経営が苦しいのに、他社の事業譲渡を受けた理由を何か?
各自でご想像いただくと、より興味深く事件を味わっていただけると思います。

さて、これでもし承継会社が破産を迎えてしまうと、業許可のみならず、施設の設置許可も強制的に取消されることになります。

「彩の国資源循環工場」へ参入したいとお考えの方は、大至急承継会社から施設の譲渡(注:廃棄物処理法に基づく手続きが必要)を受けないと、施設の設置許可申請からやり直さないといけなくなります(笑)。

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